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7/5 2019

ツバメはどこから飛来する? 『小笠原諸島〜伊豆諸島 ツバメの渡り調査』でわかったこと 後編

前編では、小笠原諸島での調査でツバメの飛来を確認した重原さん。後編では、本当にツバメが南から北へ渡っているかどうかを自ら調査に乗り出し明らかにします。観察記録のデータから島伝いの渡りのルートを割り出し、越冬地のヒントを求めにパラオにまで向かったその結果は……!?

母島に到着したばかりのツバメ。

私は「小笠原諸島や伊豆諸島で観察されるツバメがどこか南の越冬地から飛来するのであれば、南にある島ほど初認の日が早いはずだ」、と仮説を立てて、『小笠原諸島〜伊豆諸島 ツバメの渡り調査』を始めました。

南の島ほど初認日が早い

具体的な調査の内容は、ツバメを観察したら、いつ、どこで、だれが、何羽、どんな様子だったか、という5項目を満たした観察記録をメールで送っていただくというものです。対象地域は広い太平洋に南北に連なる島々。伊豆諸島の大島、利島、新島、式根島、神津島、三宅島、御蔵島、八丈島、青ヶ島と小笠原諸島の父島、母島の計11島です。ひとりですべての島に調査に行く事は困難ですが、協力者が島にいればツバメの観察記録を集めることができます。ツバメの調査に参加を呼びかけるチラシを作成し、各島の観光協会や、公共施設などに置いていただけるようお願いをしました。2019年現在も進行中ですが、2018年の春はのべ194名の方から240件の観察記録が集まりました。

ツバメの観察記録を募集したチラシ。各島の観光協会や公共施設などに置いていただいた。

御蔵島の掲示板。撮影:御蔵島観光協会。

2018年の春の調査の結果は、つぎの通りでした。
ツバメが初認されたのは、
 
・2月下旬に:小笠原の母島、父島
・3月上旬:伊豆諸島の青ヶ島と八丈島
・3月中旬:三宅島
・3月下旬:御蔵島、大島
・4月上旬:神津島、利島
・4月中旬:営巣中の式根島
 
という結果になりました。
 
この結果から、御蔵島の初認日が御蔵島より北にある三宅島より遅かったのと、大島での初認が利島、式根島、神津島より数日早かったこと以外は、南にある島の方により早くツバメが飛来したことが明らかになりました。つまり、一人一人のかたから頂いた貴重な記録を小笠原諸島〜伊豆諸島全体でつないだら、「ツバメは南の島から島を伝って北上している傾向にある」という結果になったのです。
 
2018年のこの結果をまとめたものが次のポスターです。それぞれの島の初認日をイラストに、観察記録を表にまとめました。青い色が、初認された旬、赤い色の部分は4月から5月にかけてツバメが一番多く観察された期間を表しています。

調査の結果をまとめたポスター。日本鳥学会2018大会で発表した。

2019年の調査結果はまだ集計が終わっていませんが、2018年と同じように2月下旬に母島と父島で観察され、3月中旬に伊豆諸島の八丈島、三宅島、御蔵島で観察されました。2年間の観察記録から、ツバメは迷鳥ではなく南の方から渡って来ていると考えられます。
 
では、次の疑問です。そのツバメたちが冬を過ごしていた南の越冬地はいったいどこなのでしょうか?

日本国内で繁殖したツバメの越冬地は?

巣立ったばかりのツバメの幼鳥たちは、いきなり遠距離を渡ることはできません。渡る前に、日本では河川敷などで飛ぶ練習をして体力をつけるのです。
 
夏の終わり頃の夕暮れ、今年巣立ったツバメの幼鳥たちと繁殖を終えた親たちは集まって大きな群れを作り、河川敷のアシ原などで集団ねぐらをつくります。そして、お盆を過ぎる頃から少しずつ南の越冬地へと旅立ち、気温が下がるにつれてだんだん数が減っていき、やがて寒くなる頃には姿が見えなくなります。

越冬地へ渡る前、河川敷などで集団ねぐらをつくるツバメ。東京都府中市、多摩川四谷橋近く。2014年8月。撮影:大室清(府中野鳥クラブ)

日本を出発したツバメたちが向かう越冬地は、環境省が山階鳥類研究所へ委託して行っている鳥類標識調査の回収例などから、フィリピン、インドネシア、マレーシア、ベトナム南部など東南アジアの国々であることが明らかになっています。タイのベトン、マレーシア、ボルネオ島のサバ州などの東南アジアの越冬地では、人がたくさん集まる市街地の電線や街路樹で集団ねぐらをつくっているようです。

タイ・ベトンの電線ねぐら。1995年12月 撮影:尾崎清明(山階鳥類研究所)

マレーシア・ボルネオ島サバ州パパールの電線ねぐら。1997年12月撮影:尾崎清明(山階鳥類研究所)

越冬地のツバメたちは、春になるとまた繁殖地へと渡りを始めます。今まで一般的に考えられているツバメの渡りのルートは、台湾、沖縄などの南西諸島を経由して、3月頃に九州、四国、本州で、4月下旬には北海道で観察されるようになり、なかには日本を通り越してロシアへ向かうツバメもいる、というルートです。
 
一方、まだ明らかになっていない小笠原に飛来するツバメの越冬地となりそうな場所は、距離的に近いマリアナ諸島、その先であるならばニューギニア島、オーストラリア北部、もしくは東南アジアなどが考えられますが、今の段階ではどこから飛来するのかはまだ何もわかっていません。

緑色の線が、一般的に考えられているツバメの春の渡りのルート。『田んぼの生きものたち ツバメ』(農文協)、鳥類標識調査などを参考に作図。赤い点線は『小笠原諸島〜伊豆諸島 ツバメの渡り調査』で調査中。

パラオでツバメが越冬している?

パラオのツバメ。とまっている木はモクマオウの仲間。モクマオウは小笠原では外来種ですが、父島の景色との共通点のように感じました。

ところが、とても興味深い情報が飛び込んできました。
2017年11月、東京都鳥類繁殖分布調査の報告会に来ていた東邦大学の長谷川雅美先生がとても驚くようなことをおっしゃったのです。「トカゲの調査研究でパラオに行ったがことがあるが、そこでツバメを観察した事がある。年末年始の時期に、サイパン、グアム、テニアンなどのミクロネシアの島々へも行ったが、パラオ以外の島ではツバメは見かけなかった。」と。
 
パラオは西太平洋にうかぶミクロネシア地域に位置する海洋性熱帯気候の島々からなりたっており、戦前は日本に統治されていたこともあります。東京からはおよそ3,100km南にあり、フィリピンからは約1,000km東、マリアナ諸島の南端のグアム島からは約1,300km、小笠原までは約2,300kmも離れています。
 
長谷川先生の情報のほか、パラオ在住の日本人の方にお聞きし、インターネットの情報、パラオ国立博物館の学芸員だった方からの情報などから、詳細はわからないもののパラオでツバメが越冬していることがわかりました。
2019年1月、とにかくツバメを観察しにパラオへ行ってみることにしました。

電線にとまるツバメ。パラオ・マラカル島

ツバメが観察されることが多いという情報があったので、まず最初に、マラカル島の浄水場へ行きました。土地勘も何もなかったのですが、タクシーを降りたとたんツバメの声が聞こえました。辺りを見渡すと、小笠原の父島で見たことがあるような木(モクマオウの仲間でした)に数羽のツバメがとまっていました。観察していたら次からつぎへとツバメが飛来して、電信柱や電線にとまりました。全部で30羽ほどを観察しましたが、十数羽のツバメは水を撹拌する設備の周辺をグルグルと飛び交って採餌をしていました。

パラオ・マラカル島の浄水場で採餌をするツバメ。

シギチドリ類なども観察されるマラカル島の浄水場。いくつか池があり、水を循環させていた。

次に向かったのはコロール島のゴミ埋め立て地です。
湾をひとつせき止めて、そこに生ゴミのほか家具なども捨てている場所でした。青く見えるのは、私自身も何回も利用したパラオの大きなショッピングセンターのレジ袋です。たくさんのハエがいてツバメやスズメが採餌しており、アマサギなどが土手に数十羽群れていました。

コロール島にあるゴミ埋め立て地のツバメ。

湾をせきとめてつくられたゴミ埋め立て地。

ゴミ埋め立て地に集まるアマサギなどの群れ。青く見えるのは大きなショッピングセンターのレジ袋。分解されやすい材料を使うなどの努力がなされている。

鳥たちにとっては、ゴミ埋め立て地が効率よく採餌ができる場所になっていました。人間の暮らしが鳥たちの生態に影響をあたえているのです。探していたツバメを観察できたのはうれしかった反面、ゴミで一杯の光景には言葉を失いました。

2019年の調査でわかった母島のツバメの最新情報

パラオでツバメが越冬していることはわかりましたが、ねぐらの場所はわかりませんでした。また、4月頃になるといなくなるそうですから、どこかへ渡っていると考えられます。ムナグロなどシギチドリの仲間はパラオを経由して繁殖地へ渡っているようですが、パラオからどこへ渡るにしても、少なくとも1000kmを超える海上を飛行しなければなりません。もし日本へ飛来しているとしたら、どんな旅をしているのでしょう……?

おがさわら丸から見た太平洋。島影ひとつ見えない大海原。

パラオのツバメと、小笠原諸島や伊豆諸島で観察されるツバメが関係あるのかどうかはまだ何もわかりませんが、もし、パラオを越冬地として日本へ渡って来ているのなら、小笠原諸島から北上しているルートも考えられます。
小笠原諸島の中で一般の方が行くことのできる最も南の島が、母島です。
母島は南北に細長い島で、植生は湿性高木林。一番高い山は乳房山。小富士と呼ばれる母島の南から小さな島がいくつか連なった先に平島があり、その南の海上に姉島、妹島、姪島があります。母島の南西には集落からもよく見える向島があります。

母島と属島。属島は無人島。沖港周辺を含む母島集落、乳房山頂上付近、玉川ダム、小富士、西に面した海岸線などはツバメがよく観察される場所。赤い線は、いままでの調査の観察から推測したツバメが飛来すると思われるルート。点線は海上を飛行するツバメのルートの推測。

この母島で2016年から毎年観察を続けた結果、母島でのツバメの生態が少しずつわかってきました。
 
遠い南の国から長い距離を飛び続けたツバメの気持ちになって地図を見てみると、最初に見える島は母島の南にある母島属島の島々です。向島の最高峰は136m、姉島は116mですから、飛行高度が高ければ、ツバメの瞳に最初に映るのは水平線に浮かぶ母島の最高峰標高462mの乳房山かもしれません。ツバメは、やっと見えてきた陸地をめざして飛行ルートをとるでしょう。

ツバメがよく観察される玉川ダムから、西方向に太平洋を見る。水平線の下に見えているのは母島属島の向島。ツバメは海上よりこの沢を登って飛来してくることがあった。

玉川ダムで十数羽のツバメが飛びながらさかんに水浴び、水飲みをしていた。2016年4月4日。撮影:葉山雅広

玉川ダムは、剣先山の南側にある農業用のダムで、周辺にはアカガシラカラスバト、イソヒヨドリ、メグロ、メジロ、ハシナガウグイスなどが生息しており、ツバメもよく観察されるところです。2016年〜2018年の玉川ダムでの実際の観察では、向島のある西方向の海上のほうからツバメが沢を登って飛来したことが何回かありました。
 
2019年4月19日。過去の観察などから、玉川ダムの北側の稜線を越えて行くツバメが多かったので、その稜線を見下ろすことのできる標高245mの剣先山に登ってみました。剣先山は母島最高峰の乳房山の稜線を南東に下ったところにあり、頂上を少し下ったところに剣先山展望台があります。そこからは母島の集落や属島を見渡すことができます。

剣先山展望台から南の方向を見る。剣先山稜線の西側(右側)には沖港や母島の集落があり、東側(左側)は玉川ダムへつながる沢がある。ツバメはこの稜線周辺や集落で観察されることが多い。

展望台に到着した頃、太陽はやや西に傾いていましたが、1羽から数羽の群れで海上から飛来してきたツバメを観察することができました。
到着したツバメは山の斜面などで採餌をしているようでしたが、16時頃には数十羽の群れを作り、展望台周辺や集落上空、沖港上空などを飛び交い、やがて日暮れとともに姿が見えなくなりました。そのまま母島でねぐらをとったのかもしれません。

白い円のなかにツバメ。海上から小さな群れで飛来した。

展望台周辺の上空を飛び回るツバメ。

日没前、小さな群れで休むツバメ。

母島でのツバメの観察記録をみると、同じ日に複数の目撃情報が届くこともあれば、反対に1羽も観察されない日が数日続くこともあります。これらのことから、春の渡りの時期にツバメは連日飛来するのではなく、ある程度間隔を開けて飛来していると思われます。
 
小笠原諸島や伊豆諸島で観察されるツバメたちが、どこから飛来するのかはまだわかりませんが、母島でみたツバメたちは生き生きと島を飛び交っていましたし、各島の協力者から送っていただいたツバメ観察情報や写真などからも、ツバメたちの様子が伝わってきます。
山の頂上付近や稜線などをとても早く短い期間に通り過ぎることも多いので、島では目立たない存在かもしれませんが、確かにツバメたちは飛来しているのです。
 
ツバメは世界中に生息していますが、日本へ飛来するツバメは広い太平洋を越えなくてはならないため、ヨーロッパ大陸とアフリカ大陸、北アメリカ大陸と南アメリカ大陸を行き来するツバメとは違った渡りを行っています。重さ20gにも満たない小さなツバメが、アホウドリと太平洋の小さな島で出会うような、スケールの大きい渡りを行っていることに私は感動と畏敬の念を覚えるのです。
 
もし、小笠原諸島、伊豆諸島、ミクロネシアの島々、太平洋の航路などで、ツバメを観察したことがある方は、ぜひその時の記録などを送ってください。世界中のツバメファンと太平洋を渡るツバメの渡りの謎を探ることができたらとても嬉しいです!

Credit  イラスト・写真・文:重原美智子

Author Profile

重原 美智子

本職はイラストレーター、デザイナー。子どもの頃から鳥好きだったが、1995年にヒマラヤを越えるアネハヅルの衛星追跡の調査でモンゴルへ行った事がきっかけで、地球をわたる鳥たちに感動。鳥の絵の仕事に、『シジュウカラからシジュウカラ きこえてくるよとりのこえ』(岩崎書店)『鳥たちの旅』(NHK出版)『わたり鳥の旅』(偕成社)などがある。日本ワイルドライフアート協会会員、日本鳥学会会員。
 
太平洋のツバメの観察記録、募集しています。
『小笠原諸島〜伊豆諸島 ツバメの渡り調査』のHP
http://oga-izu-swallow.jp/
イラスト、デザインのHP
http://michiko-shigehara.art.coocan.jp/

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