日本酒はさまざまな銘柄のお米、「酒米(さかまい)」から作られているって知っていましたか?
酒米を紹介する図鑑『酒米ハンドブック 改訂版』から、酒米の基礎知識を紹介します。(文:副島顕子 編集:BuNa編集部)
※本記事は『酒米ハンドブック 改訂版』からの引用記事です。
酒米とは、清酒(日本酒)の原料ととなるお米のことで、正式には「酒造好適米」あるいは「醸造用玄米」とよばれます。酒米の生産量は米の全生産量の約2%程度で、そのうち山田錦(やまだにしき)と五百万石(ごひゃくまんごく)の2品種が酒米の作付け面積の60%以上を占めます。
現在、最も多く作付けされている酒米は山田錦です。非常にすぐれた酒米として需要が高く、2001年にはそれまで長く作付け面積トップを走っていた五百万石を逆転しました。その後五百万石が抜き返しましたが、現在では再び山田錦がトップになっています。山田錦は兵庫県など西日本で栽培されています。五百万石は北陸を中心に、3番目に多い美山錦(みやまにしき)は南東北で栽培されています。
現在栽培されている酒米の品種は100種類ほどあり、それぞれさまざまな特徴をもち、また同じ品種でも栽培する土地や条件によって品質は変化します。例えば山田錦は、南は宮崎から北は宮城まで栽培されていますが、最も品質のよいのは兵庫のものといわれ、価格にも大きな差があります。さらに、地酒ブームや地産地消の取り組みの中で、各地域で新しい品種も登場しています。
2010〜2015年の新品種
清酒の原料には、酒米という専用のお米だけでなく、コシヒカリなど飯用品種も広く使われます。『酒米ハンドブック 改訂版』では、酒米だけでなく飯用一般米や本来は飯用向きでも酒造りに適した酒造用一般米、低グルテリン米などの新形質米も紹介しています。
※以下の記載は育成報告書または代表的な生産県におけるデータに基づいています。各項目の内容は次の通りです。
・系譜図:祖父母・両親品種を示しています。上段が母(胚珠)親、下段は父(花粉)親となった品種です。
・千粒重(標準のもの):玄米の状態での米粒1,000粒の重さです。
・育成年:品種登録された年を示します。
・育成者:品種登録の申請者です。民間人の場合は氏名と登録地、国試験地の場合は農業試験場の名称(独立行政法人化以降は新名称)と所在地、都道府県試験地の場合は県名を示しています。
・生産地:2016年に産地品種銘柄に指定されていた都道府県です。
山田錦 やまだにしき
命名由来:大正12年に交配、昭和6年に「山渡50-7」の系統名が付けられ、昭和11年に山田錦と命名された。
倒伏しやすく、病気にも弱くて農家泣かせの栽培困難品種ながら、最高の酒米としての評価が高く、2001(平成13)年に五百万石を抜いて以来、酒造好適米の作付第1位を誇る。東北から九州まで広く栽培されるが、地域によって品質は異なり、特に兵庫県の吉川町(現三木市)、東条町(現加東市)、杜町東部(現加東市)のものが最高とされる。晩生、耐倒伏性、耐病性は弱。大粒で心白発現率は80%弱。心白の形状は線状でやや小さく高精白が可能。タンパク質含量も少ない。蔵元にとって酒造りのしやすい米で、消費者の知名度も高い。
千粒重:27〜28g
育成年:1936年
育成者:兵庫県
生産地:宮城県、山形県、茨城県、栃木県、神奈川県、新潟県、富山県、石川県、福井県、山梨県、静岡県、三重県、滋賀県、京都府、大阪府、兵庫県、奈良県、和歌山県、鳥取県、島根県、岡山県、広島県、山口県、徳島県、香川県、愛媛県、高知県、福岡県、佐賀県、長崎県、熊本県、大分県、宮崎県、鹿児島県
五百万石 ごひゃくまんごく
命名由来:育成年の昭和32 年に新潟県の米生産量が五百万石を突破したことを記念して命名。
東北南部から九州北部まで広く適する。1944年に「交系290号」の系統名がついたが戦争で栽培が中断。1957年、新潟県で奨励品種に。交配から20年近くたって普及し、その後40年以上作付トップの座を占めたまれにみる長寿品種(2001年山田錦に抜かれた)。早生、耐冷性、耐倒伏性に弱いが心白発現率は高い。心白が大きく50%以上の高精白は困難で高級酒には不向きだが、麹が作りやすいと評判。淡麗できれいな酒質。
千粒重:25.8g
育成年:1957年
育成者:新潟県
生産地:山形県、福島県、茨城県、栃木県、群馬県、千葉県、新潟県、富山県、石川県、福井県、岐阜県、静岡県、三重県、京都府、大阪府、兵庫県、和歌山県、鳥取県、島根県、山口県、大分県
美山錦 みやまにしき
命名由来:長野県の美しい自然の中で生産され、美しい山の頂のような心白がある酒造好適米の意味。
耐冷性が強く、長野県や東北地方を中心に栽培される。長野県でたかね錦に代わる、より大粒で心白発現率の高い品種を目標に育成され、その酒造適性と耐冷性の強さにより東北、関東、北陸まで広範囲に普及。寒冷地における酒米品種の代表として、山田錦、五百万石に次ぐ第3位の酒米品種であるが、近年は各県オリジナル品種の台頭で減少傾向。中生、長稈で倒伏しやすい。心白発現率は高いが、腹白もやや多い。なめらかでさっぱりとキレの良い酒質。
千粒重:26.0g
育成年:1978年
育成者:長野県
生産地:宮城県、秋田県、山形県、福島県、茨城県、栃木県、富山県、長野県
雄町 おまち
命名由来:最初「二本草」と呼ばれたが、普及段階で育成地名の「雄町」が通称となって広がり定着した。
岡山県高島村雄町の岸本甚造氏が伯耆国大山に参拝の帰路発見した穂から1866(慶応2)年に選抜改良。100 年以上途切れずに栽培され続けている唯一の品種。現在栽培されているのは、1921(大正11)年に岡山農試で純系分離したもの。晩生で、耐倒伏性・耐病性が弱く栽培が困難で昭和40年代に激減したが、1990年頃から作付面積が増加。大粒で心白発現率が高いが、軟質で心白が大きいため、高精米が難しい。備前雄町、赤磐雄町と呼ばれるのもこの品種。味に幅のある個性的な酒質。
千粒重:27.3g
育成年:1866(慶応2)年
育成者:岸本甚造(岡山県)
生産地:千葉県、大阪府、岡山県、広島県、香川県、福岡県、大分県
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Author Profile
副島 顕子
熊本大学大学院先端科学研究部教授.専門は植物系統分類学.国内外で植物採集をおこない,研究室では分子生物学的な研究をしている.趣味で日本酒指導師範,唎酒師,スピリッツアドバイザー,焼酎唎酒師の資格を取得.『酒米ハンドブック』(文一総合出版)著者.