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魚・甲殻類・貝類

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9/12 2024

秋の浜辺のビーチコーミング 美しい青いクラゲ・ルリガイ・アオイガイを探そう

夏が終わると、海辺にはビーチコーミングの季節が到来!
浜辺を散歩しながら、海からの宝物を探してみませんか?
今回は漂着物の中でも、特にビーチコーマー憧れの青いクラゲ・ルリガイやアサガオガイ・アオイガイを紹介します。

美しくも危険な青いクラゲ,カツオノエボシ

日本の沿岸に漂着する青いクラゲには、カツオノエボシ・カツオノカンムリ・ギンカクラゲがいます。彼らはクラゲの中でも海面近くで生活する種類で、どれも海の色に溶け込む保護色のような青い体色をしています。

カツオノエボシ

この中で最も強毒なのはカツオノエボシです。浮力体の中に二酸化炭素などの気体を入れて海面に浮き、その下に長い触手を伸ばしています。浮力体を烏帽子(えぼし)に見立て、またカツオがやって来るころに黒潮に乗って来るので、カツオノエボシと名づけられました。触手には魚を麻痺させる毒があり、人が刺されると激しい痛みを伴い死に至ることもあります。漂着して動かなくなっても毒は残るそうですから、触手には絶対に触れないようにしてください。

浮力体を踏むとパンと音を立てて割れるので子どもが喜んで遊ぶが、よく気をつけること

カツオノカンムリ、ギンカクラゲ

カツオノカンムリ。日本で見られる個体の帆は、円盤の長軸に対して左側に傾斜しているタイプと、右側に傾斜しているタイプとがある

まだ新鮮で触手のあるギンカクラゲ。青色が美しい

カツオノカンムリは長円形の円盤の上に、三角形の帆をもっています。ギンカクラゲは正円の円盤の周囲に青い軟体部をもち、その下に短い触手が伸びています。ギンカクラゲは浜辺に打ち上げられた青い軟体部が失われ、円盤だけになったものを銀貨に見立て、その名がつきました。この2種にも微毒があるので注意が必要です。

乾燥して円盤だけになったギンカクラゲ

カツオノカンムリとカツオノエボシは名前の通り、初カツオが旬になる4〜5月にかけて太平洋側で漂着が始まります。ギンカクラゲはそれより遅れて夏から秋にかけて漂着が盛んになり、11月ごろには漂着の機会は減ります。

海面で暮らす貝 アサガオガイ・ルリガイ

ルリガイは成長すると殻径が5cmほどにもなり、浮き袋は20cm近くになることもある。カツオノカンムリには微毒がある。むやみに触らないこと

ビーチコーミングではめずらしい貝と出会うことがあります。それが浮遊性の海面で暮らす貝です。多くの貝は海の底や岩についていますが、浮遊性の貝は大海原を漂い、世界中の海に広く分布しています。
 
その代表がルリガイなどアサガオガイ科の貝と、足が左右に広がり翼のように泳ぐ翼足類(よくそくるい)と呼ばれる貝です。中でもアサガオガイ科の貝はおもしろい生き方をしており、粘膜性の浮き袋を作り、それに卵を産みぶら下がって生活しています。肉食性のアサガオガイやルリガイは、カツオノエボシやカツオノカンムリ、ギンカクラゲといった海面に浮かぶ青いクラゲを主な餌としており、青みを帯びた殻や軟体部は餌の色を取り入れたものと考えられています。

①ルリガイ、②アサガオガイ、③ヒメルリガイ

色がきれいなめずらしい貝

ルリガイの殻は薄くてもろいので、欠けていない殻を見つけるとうれしいものです。大量漂着することもあり、近年では2020年秋に大量漂着がありました。青いルリガイの仲間はビーチコーマーに人気がありますが、いつでも拾える貝ではありません。7~10月の、海からの強い風が吹いた後に出会える可能性が高くなります。
 
アサガオガイはルリガイに比べて偏平で、殻のてっぺん側がごく淡い青紫色、反対側が濃い群青色です。ヒメルリガイはルリガイに比べて小さく角張った形をしており、青みが強い殻をもっています。

憧れのアオイガイ

アオイガイの螺旋はなぜ美しいのか? 筆者が考えるに、フィボナッチ数列から導き出された1:1.618の黄金比に極めて近いからではないだろうか

ビーチコーミングでぜひ拾ってみたい漂着物、アオイガイ。美しさの基準はさまざまですが、この貝殻の美しさは別格です。晩秋の北陸地方で見つかるアオイガイは息をのむほどの美しさで、冬の到来を知らせる風物詩です。

海からの季節風で浜の奥に運ばれたアオイガイ

触腕でアオイガイを抱えるカイダコ

アオイガイを作り出すのは、カイダコというタコのメスです。メスは、産んだ卵を孵化させるためのゆりかごとして、8本ある脚のうち1対の「しゃもじ形」をした触腕(しょくわん)から分泌した成分でアオイガイ(貝殻)を作ります。また、事故などで殻が割れ破損すると、その部分を補強して作り直しています。アオイガイの表面にある波打つトタン板のような模様、殻が薄くても強度を保てるような構造になっています。カイダコはこのアオイガイの螺旋中心部に卵を産みつけ、育てます。
 
日本海側での報告例から、アオイガイは秋口から冬のはじめに一つの漂着ピークを迎えます。なぜこの時期かというと、アオイガイの多くは海水温が15℃以下になると弱って遊泳することが難しくなり、沿岸に流されて漂着するということが考えられます。
 
アオイガイとカイダコは一緒に漂着することが多く、カイダコだけが見つかれば、近くにアオイガイが打ち上がっている可能性は高いです。

秋から冬の漂着傾向

今回ご紹介した青いクラゲとアオイガイには、漂着しやすい季節と傾向があります。

晩夏から秋にかけてはカツオノエボシは減少し、カツオノカンムリは相変わらず、そしてギンカクラゲはぐっと増えてきます。また、ギンカクラゲと一緒にやって来る貝ではルリガイが増え、アサガオガイは少なくなってきます。
そして晩秋になると、アオイガイが漂着しやすくなってきます。
 
このように、夏の海だけではなく秋〜冬の海辺にもいろいろなものが漂着しており、ビーチコーミングをするには楽しい季節です。ぜひ、涼しい時期のビーチコーミングを楽しんでくださいね。

もっとビーチコーミングのことを知りたい方には…

ビーチコーミング小事典
はじめてのビーチコーミングに役立つ浜辺の基礎知識はもちろん、自然物・人工物のパートそれぞれで自分の拾った漂着物のあたりをつけることができる。さらに、拾ったものの保管方法や貝や流木のクラフトの作り方、ビーチコーミングにおすすめの海岸・書籍の紹介まで、これ1冊でビーチコーミングのガイドブック代わりにもなる充実の内容。
 

林 重雄 著 / 四六判 / 176ページ

ISBN 978-4-8299-7253-3

2024年7月5日発売

定価2,200円(本体2,000円+10%税)


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Author Profile

林 重雄

幼少時より海や自然と親しみ、拾い物に目ざめる。1990年より福井県恐竜発掘調査に参加、その後富山県でも恐竜発掘調査に参加。学生時代にAmos Woodさんの『Beachcombing for Japanese Glass Floats』を知り、アメリカ人が日本の浮き玉に興味を持っているのを見て驚く。初代漂着物学会会長である石井忠先生の著作を通して漂着物に関心が湧き、その後、石井先生を師と仰ぎ、日本海側と太平洋側でビーチコーミングや布教活動を行う。本書ではイラストと写真も手掛ける。漂着物学会員、福井県海浜自然センタービーチコーミング講座講師。
WEBページ・https://beachcomberjp.jimdo.com/
インスタグラム・https://www.instagram.com/shigebeachcomber/?hl=ja

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