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BuNa コラボ企画

Collaboration

4/25 2019

虫除け対策ってどうしてる? 研究者がマレーシアのジャングルで、着る防虫『スコーロン®』を試してみた

キャンプ、バーベキュー、トレッキング……フィールドを愛する人が待ちに待った季節の到来ですね! しかし、野外で気になるのは虫たちの存在。外での活動を楽しむために、不快な虫対策は万全にしたいところです。
 
ところで、着るだけで虫が寄りつかない服『スコーロン®』をご存知ですか?
とあるいきさつから、現役フィールドワーカーである熱帯林研究者の山田教授に、このスコーロン®をマレーシアのジャングルで試着してもらいました!
 
その結果、虫除け効果の検証をも左右してしまう、意外な熱帯林の現状が明らかに……。
 
(この記事は株式会社ティムコFoxfire)提供のもと作成されています)

ジャングルトレイル

絶対にかかりたくないマラリアがそこにある

私の職場はマレーシアやインドネシアの熱帯林。いわゆるジャングルだ!
 
ここでの仕事で一番注意しないといけないのは害虫対策。一部の熱帯風土病は、蚊などの害虫が媒介するためだ。こうした病気にならないためには、害虫の被害にあわないことが最も重要!
 
と、わかっていながらも、恥ずかしながらインドネシアの野外調査中にマラリアに罹患してしまったことがある(その闘病経験をBuNaで紹介しています)。マラリア対策は意外に単純で、「蚊に刺されないための万全の策を尽くす」に尽きる!
 
とは言うものの、熱帯ジャングルでの防虫は困難を極める。注意していたにもかかわらずマラリアに罹患した事実からも、熱帯での防虫対策がいかに難しいか、容易に想像していただけるはずだ。

今までの防虫対策

さて、まずはこれまで講じてきた熱帯ジャングルでの蚊対策を紹介しておこう。それは、
 
(1)虫よけスプレーを体中に振りかける
(2)携帯用蚊取り線香器を利用して、調査中ずっと蚊取り線香をたく
(3)肌をなるべく露出しないように、長袖長ズボンを着用する
 
という、極めて常識的ながら、めんどうくさいものだ。そのため長年防虫対策に悩まされてきたのであるが、とある日唐突に、この状況を打破するべく、アウトドアブランドFoxfireから一通のメールが届いた……。

ここにいらっしゃいましたか!

「先生! ここにいらっしゃいましたか! とうとう探し求めていた人に出会うことができました!」
 
突然のメールを開けると、飛び込んできたのはハイテンションの冒頭文。その後に続く本文は長く、熱かった。
 
メールには、マラリアの危険と隣り合わせの私に、スコーロン®ウェアの防虫効果を熱帯ジャングルで試して欲しい旨が書かれていた。要するに、ウェアは長袖長ズボンだから、さきほどの
(1)虫よけスプレーを体中に振りかける、
(2)携帯用蚊取り線香器を利用して、調査中ずっと蚊取り線香をたく
を講ずることなく入林して欲しいというオファーだった。
 
Foxfireと私を結び付けたのは、他でもない本ウェッブマガジン“BuNa”だ。BuNaに連載したマラリア闘病記をFoxfireが読んでくれていたのである。

『スコーロン®』ウェアって?

さて、そもそもFoxfireが手がけ、防虫効果を持つという『スコーロン®』ウェアとはどんなものだろうか? 紹介しておこう!
 
アース製薬と帝人フロンティアが共同開発した、繊維に虫を寄せつけない特殊加工を施した素材がスコーロン®だ! 例えば、虫が生地表面にとまっちゃったりすると、触覚と足の先にある感覚器でスコーロン®を感知し、逃げてゆくという寸法になっている。つまり、不快な虫を不快にさせて追い払うのが、スコーロン®というわけ。Foxfireでは、UVカットをはじめとする様々な機能を併せ持つこの素材を積極的に採用し、不快な虫が生息するフィールドでの活動に適したウェアを展開してる。
 
…… マジか? マジなのか? もしこれが本当ならば、着用さえすれば他に防虫対策を講ずるまでもなく、野外活動を楽しめる夢のようなウェアだ。このうたい文句通りならば防虫対策が格段に楽になるんだけど……熱帯ジャングルでも「着る防虫」は機能するのだろうか? 熱帯の蚊はそんなにやわじゃないはず……。
 
「このオファー、断ったほうがよいのでは」、という考えが一瞬頭をよぎる……よぎっちゃったものの、スコーロン®ウェアのみでジャングルに入林することを提案するわけなのだから、Foxfireにはかなりの自信があるに違いない。覚悟もあるに違いない。お会いした担当者も熱かった。よし、その自信と覚悟とヒートに賭けてみましょう! スコーロン®ウェアのみで、その他丸腰でマレーシアの森に臨んでやりましょう!
 
ということで、2019年3月、マレーシア熱帯ジャングルの調査で防虫効果をで試してきたので、報告しよう。

SCダウナーキャップSCリップストップシャツカーキSCアルティメットパンツを着用。靴はマレーシアで購入。

南に直進せよ!

実は「着る防虫」による害虫対策は、私にとっても追い風だった。今回の調査は重い機材を背負って、方位磁針とGPSを頼りにジャングルを南に直進するというものだ。道なき道を、ただただまっすぐ南に下りる。直進距離は1.5kmほどだから大したことがないように聞こえるかもしれないが、川があろうが、沼があろうが、茨が生えようが(実際にこのジャングルにはジャケツイバラやラタンの仲間がたくさん生えていて、毎日のように棘にやられている)、ただただ直進する。直進することに価値がある調査なのだ。
※ 一直線上の調査はトランセクト法と呼ばれ、生態学では時々利用される方法だが、1.5kmのトランセクトは常識はずれに長い。常識を超えたところからしか見えない世界があると信じて、調査を進めている。

何があっても南へ一直線!

ツル性のヤシ、ロタンは、刺さると出血するくらい強力な棘に覆われている。

この調査には、携帯用蚊取り線香は不向きだ。藪の中を進むうちに、携帯用蚊取り線香が下生えなどに引っかかって無くなってしまうことがよくあるからだ。また、重い荷物を背負っているときは、蚊になどかまっていられない。
南に直進することと、背中の重い荷物に全神経を集中させてしまっている調査中、蚊のストレスから解放されるのならば本当にありがたい。着るだけで防虫効果があるスコーロン®ウェアは、(効果があるとすれば)極めて頼もしいツールになる。期待を膨らませながら、「着る防虫」を着用し、熱帯ジャングルに入った。
 
調査地に着くと、いつもと様子が違っていた。カラカラだ。聞けば、もう2か月もまともに雨が降っていないらしい。水たまりもなければ、ジャングル内の小川も、沼も干からびている。調査地では、例年3月は雨の少ない時期に当たるが、去年は3月でもよく降っていたし、地面も所々湿っていた。川もあれば沼だってあった。なのに今年ときたら…… ここ数年、毎年の気候の変動が大きくなっている気がする。
 
雨が少なく、水たまりがなくなれば、ボウフラがいるわけないのだから蚊が少なくなる。案の定、例年に比べて蚊の少ないジャングルだった。

調査地のある熱帯ジャングルと隣接するアブラヤシのプランテーション。整然とアブラヤシが植えられている。このヤシから実を取り、製油する。多くは食用油として利用され、日本での消費量も多い。マレーシアは、インドネシアと並ぶ世界の主要なヤシ油産油国だ。

アブラヤシのプランテーション(左側)と熱帯ジャングル(右側)の境界。ジャングルにすむ野生動物は、頻繁にアブラヤシ園に移動し、アブラヤシの実を食べていることがわかってきた。野生動物の往来は、プランテーション側ではアブラヤシを食害する害獣問題を、ジャングル側では森林の劣化を引き起こしているらしい。まずは、野生動物の往来と行動パターンを明らかにすることを目指して調査を実施している。

イノシシの巣。直径3mくらいの円状に、若い木を積み上げて作られる。この巣は、子育ての初期、2週間くらいしか使われない。ジャングルではこうした巣が多く見られる。一方、森林調査により、イノシシの営巣のための若木の刈り取りが、この森での若木の主要な枯死理由になっていることも明らかになっている。 つまり、イノシシの数が増えると、巣の数も増え、それだけジャングルが荒廃するのだ。 ジャングルーアブラヤシプランテーションーイノシシの、奇妙な負の三角関係の実態の解明が必要だ。


 

結局、蚊に刺されたの?

今回の調査は短い。4日間だけだ。そして、結論から言えば、4日間、蚊に一度も刺されなった。
 
ただし、この結果をもって「スコーロン®ウェアの防虫効果は熱帯ジャングルでも十分通用する」と結論付けるのには、少し慎重になった方がいいかもしれない。蚊に刺されなかったのは、例年に比べて蚊が少なかっただけかもしれないし、一日中動き回り、ある場所に長時間留まることが無い調査手法のせいだったかもしれない。
 
とは言え、時折ジャングルで立ち止まると蚊の羽音は聞こえたし、まったく蚊がいないというわけではなかった。この状況で被害なしということは、スコーロン®ウェアは上出来かもしれない。調査補助に入ってもらった人(彼はウェアを着用していない)に蚊の被害状況を確認すると、
 
「少しは刺されたけど、気にするな」
 
と言っていた。やはり、少ないとはいえ、少しは蚊の被害があるようだ。それに、意外にも彼は、私が彼を気遣っていると勘違いもしてくれたらしく、予想外に“優しい自分”を演出することさえできたようだ。
 
まずは、乾期の蚊の少ない時期ならば、熱帯のジャングルでもスコーロン®ウェアは十分機能を発揮するとまでは言えよう。ただし、雨のよく降る時期にも、防虫効果を試してみることが必要だ。もし雨の多い時期にも効果的ならば、これまでの防虫対策を楽な方向へ大きく転換することができる。
 
期待外れ?に蚊が少なかったジャングルだったけれども、熱帯域での着心地は、しっかりチェックすることができた。そして、「長袖でも涼しい」「オシャレにヒル対策できるかも」という別の長所も発見することができた。その長所を、熱帯林の環境と合わせてもう少し紹介しよう。

けっこう涼しいじゃん

雨が降らないとなると、気温がぐんぐん上がる。つまり、暑い。今回は、「マレーシアってこんなに暑かったっけ?」と、ここがマレーシアであることを疑うほどの暑さだった。
 

SCリップストップシャツ、SCアルティメットパンツ

SCアルティメットフーディ、SCアルティメットパンツ

さて、今回使用したパンツ(SCアルティメットパンツ)は厚手だ。虫からの攻撃に備えてのことだろうが、使用前は熱帯では不向きなのではと内心思っていた。ところが実際履いてみると、履き心地は案外軽く、動きやすいだけでなく、熱帯ジャングルを一日中歩き回っても、下半身にほとんど暑さは感じなかった。通気性が良いように工夫してあるのだろう。これならば、熱帯での野外活動を快適に進められる。
※SC:スコーロン
 
続いてシャツ(SCリップストップシャツ)の着心地評価だ。蚊だけでなく、茨やヤシの棘、ウルシの樹液から身を守るため、熱帯雨林調査では長袖の着用が必須なのだけれども、長袖だと当たり前に暑い。スコーロンウェアのシャツも当然長袖なのだが、吸汗性と速乾性が良いためか、かなり快適な着心地だった。シャツも、熱帯のような“暑い”環境で快適に着用できる。
 
ただし、パーカー(SCアルティメットフーディ)は熱帯雨林気候では少し暑いように感じた。蚊は発生しているものの、もう少し気候がマイルドな地域か、早朝や夕暮れ、夜間の使用が合っているのかもしれない。

SCアルティメットフーディ とSCハーフグリッパーを着用。

さらに、フードとグリッパーを着用すれば両方ともスコーロンを使用しているため、手まで防虫効果が及ぶはずだ。フィールドでは野帳にメモを書きながら行動するので、着用しながらでも細かい作業ができる、指先が開いたSCハーフグリッパーは勝手がいい。

SCアルティメットハーフのみを外したところ。 SCアルティメットフーディだけでも、腕から手にかけてのかなりの部分を保護している。

SCハーフグリッパーだけだと、こんな感じ。

フィールドだって、おしゃれをしたい

私が調査をしている熱帯ジャングルなどのほとんどに、ヤマビル(動物の血を吸う、数センチ位の細長い、ヌメヌメした生き物)が棲んでいる。そして、今回調査に訪れているジャングルのヤマビルの多さは尋常ではない。このジャングルのヤマビルの多さを物語るエピソードを紹介しよう。
 
ある日のことだった。ヤマビルにかまわずに調査に没頭していた私の体にヤマビルがジャンジャン登ってきていたことがあった。這い上がってきたヤマビルは、なんと30匹以上。体の上でうごめくヤマビルの群れを目撃した大学院生は、
 
「先生、すごいっすね。リアル祟り神じゃないですか。リアル祟り神、始めて見ました」
 
と私を褒めてくれたのだが、ヤマビルの手入れをしなければ、誰でもなれる祟り神なのだから、感心される筋ではない。
 
 
リアル祟り神たる私だって、実はヤマビルに血を吸われたくはない。ヤマビルからの吸血対策は、肌を露出しないこと。ズボンや靴下の上からは、なかなかヤマビルは血を吸えない。足元から登ってくるヤマビルは、靴と靴下越しに血を吸うことはできないので、そのままこの辺りを通過し、靴下の先にあるふくらはぎ辺りで吸血する。
 
こうした事態を避けるため、私はズボンの裾の上に靴下を被せ、ヤマビルに肌に到達させる隙を見せないようにしているのだけれども、常々思っていたことを今日始めて白状しますが、この格好がダサい。フィールドでだって、誰にも見られていなくたって、アラフィフだってオシャレをしたい。でも、ヤマビルの被害には合いたくない。だから、仕方なくオシャレの方を我慢して、30年間し続けてきたのだ。“ズボンの裾、靴下被せ”。

今までのズボンの場合、ヤマビル対策のため、ズボンの裾の上に靴下を被せて、ヤマビルがズボンの裾から入り込まないようにする必要があった。

この状態で靴をはけば、こんな風になる。これは、ダサい

そんなオシャレ番長の私に光明がさした気がした。今回利用したパンツに、ヤマビル対策とオシャレの両立の可能性を感じたのだ。もしかすると、“ズボンの裾、靴下被せ”から卒業することができるかもしれない。
 
なんと、SCアルティメットパンツのズボンの裾にインナーカフス(返しの布)がついている! この構造はヤマビル返しのように働くに違いない。

ズボンの裾をあげて、その下にあるインナーカフスの上から靴下を被せれば、ズボンの裾を靴下で被せるのと同じ効果になる。これにより、ヤマビルはズボンの中に入れないはずだ!

ズボンの裾を戻したところ。こうすれば、ヤマビル対策はしてあるのに、ダサくなくズボンをはくことができる。フィールドワークでもオシャレができるというわけだ。

すっきりした足元。ヤマビルがたくさんいる森に入るときでも、足元をオシャレのままで保つことができる。

今回の調査では、インナーカフスのおかげで、ヤマビル対策のための“ズボンの裾、靴下被せ”をせず、30年ぶりにオシャレを満喫してフィールドワークに勤しめた。
 
ただし、白状すると、インナーカフスのヤマビル返しとしての機能も十分に試すことができなかった。林床がカラカラすぎて、ヤマビルの活動がほとんどなかったからだ(ある程度地面が湿っていないと、ヤマビルは活動できない)。これについても、再度のお試しが必要なようだ。
 
今回のマレーシアでの試着では、極度に乾いた気候のため、スコーロン®ウェアの防虫機能評価を残念ながら十分できなかった。次回の調査は雨期の予定。その時にもう一度仕切り直しして、報告してみたい。
こう、ご期待!
 
 
お問い合わせ
Foxfire:https://www.foxfire.jp
TEL 03-5600-0121
 
着る防虫 スコーロン® のウィメンズはこちらから!
 
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Author Profile

山田 俊弘

広島大学大学院 総合科学研究科 教授.博士(理学)
熱帯林での25年を超える研究歴(植物生態学・森林生態学)があり,毎年数回,インドネシア,マレーシア,ミャンマーなどの熱帯林で調査を行っている.専門は熱帯林の生物多様性とその保全.2015年 日本生態学会大島賞受賞.著書は『絵でわかる進化のしくみ 種の誕生と消滅』(講談社),『温暖化対策で熱帯林は救えるか』(分担執筆:2章ー4担当、文一総合出版),『論文を書くための科学の手順』(文一総合出版),『〈正義〉の生物学』(講談社 ).
ホームページ:http://home.hiroshima-u.ac.jp/yamada07/
ブログ:http://home.hiroshima-u.ac.jp/yamada07/posts/post_archive.html

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