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12/13 2024

ウミウシを食べてみた

第1回 ところでウミウシってなに

アオウミウシ

多彩な色とかたちがおもしろくダイバーや磯遊びで人気の海の生きもの、ウミウシ。
見た目だけでなく、その生き様は私たちの想像を超えるほど奇想天外!?
そんなウミウシ沼に人生をかけてハマった中野理枝さん(公益財団法人黒潮生物研究所 客員研究員・NPO法人全日本ウミウシ連絡協議会理事長)が、ウミウシの基礎知識をご紹介します。
(本記事は2025年1月18日発売予定の書籍『ウミウシを食べてみた』からの抜粋記事です)
文・写真:中野理枝

ナマコの仲間?

ウミウシを巻貝の仲間と知ってびっくりしていた頃から30年以上が過ぎて、今や私は日本各地でウミウシセミナーを開催するようになりました。セミナー参加者は多くの場合、ウミウシに興味はあっても知識はあまりない、かつての私のような一般の方や子供です。そんな人たちや子供たちに、私はよくクイズをします。
そのひとつが「ウミウシに最も近い動物は次のうちどれでしょう? Aナマコ Bカキ Cサザエ」
 

正解はCサザエ。ナマコとそっくりな、黒くて長めの楕円形をしたホンクロシタナシウミウシの写真の横にナマコの写真を載せておくと、ほとんどの人や子供たちは「ナマコ!」と言います。触角が目立たない白っぽいウミウシの写真を載せておくと、「カキ……?」と遠慮がちに言う人が増えます。が、「サザエ」と答える人はまずいません。ヒトがいかに見た目に騙されやすいか、ということですね。
 
※写真はA. ナマコ B. カキ C. サザエ D. ウミウシ(ホンクロシタナシウミウシ)
※ナマコ:ヒトデやクモヒトデ、ウニ、ウミシダの仲間で、棘皮動物門という分類階級(簡単にいうと「グループ」)に属する動物。このグループは五放射相称(骨格や筋肉などが体の中心から5方向に放射している)という体のつくりをしている。ヒトデやクモヒトデは見るからに五放射だが、ナマコも体の断面を見ると五放射になっていることがわかる。

ナメクジの親戚!

少し専門的な話になりますが、ウミウシや巻貝は「軟体動物門」という大きな動物グループに属する「腹足綱」という小グループの一員です。腹足綱に属するのはウミウシ、巻貝、カタツムリ、ナメクジ。巻貝とカタツムリは貝殻をもちますが、ウミウシとナメクジは貝殻がありません(貝殻があるものもいます)。
 
貝殻のあるなしにかかわらず、腹足綱のほぼすべての動物には腹足というパーツがあり、腹足の筋肉と繊毛と粘液を用いて、ずるっぬるっと前に進みます。それが腹足綱というグループの名前の由来です。腹足類のうち巻貝とウミウシは海(一部は淡水)で暮らしていますが、カタツムリとナメクジは陸上で暮らしています。しかし乾燥したところは苦手で、陸でもじめっとしたところを好みます。
 
ここで視点を変え、どのように進化してきたかを見てみましょう。その昔、海の中で誕生した腹足類の祖先が、海の中にとどまったまま進化したのが巻貝とウミウシ。陸に進出してから進化したのがカタツムリとナメクジです。

腹足類の進化。カンブリア紀(約 5億4100万年前~約 4億8540万年前)初期に軟体動物の共通祖先である小さな動物が出現した。それから派生した腹足類(巻貝類)の祖先が、カンブリア紀後期からオルドビス紀(約4億8830万年前~約4億4370万年前)にかけて出現した。ウミウシのような化石記録に残らない動物の場合は、祖先がどんな形をしていたかを特定するのが難しいが、軟体動物の他の仲間たちと同様にウミウシの祖先もオルドビス紀に出現して現在に至ったと考えられている。なお最近の遺伝子学的研究から嚢舌類とスナウミウシ類はウミウシよりもナメクジ類に近縁であることが判明しているが、本書ではあえてふれていない。また本図の系統樹もたいへん簡略化してある。

ここで再び貝殻に着目して「海で貝殻をなくす方向に進化したのがウミウシ、陸で貝殻をなくす方向に進化したのがナメクジ」「つまりウミウシとナメクジは親戚」と解説すると「あんなにかわいいウミウシがナメクジの親戚?」「うそー」「やだー」と顔をしかめつつも、4つのグループの関係について、多くの人が納得してくれるようです。
 
「貝殻をなくす方向に進化した巻貝がウミウシ」と聞いてすぐに納得できない人が多いのは、やはりウミウシの色とかたちのせいではないかと思います。なにしろ巻貝の軟体部は地味ですからね!
 
私たちがよく知るサザエやアワビ(ああ見えてアワビは巻貝の仲間)の軟体部は地味なホタテ色をしています(注:ホタテは二枚貝の仲間)。あの派手で多彩な色合い、かつ多様なかたちをしたウミウシが巻貝の仲間だとは、にわかに同意しかねるのも当然です。
 
(ではなぜウミウシは地味な軟体部の貝殻もち貝類と決別して、派手な軟体部の貝殻なし貝類に進化したのでしょう。それについては2025年1月発売の『ウミウシを食べてみた』にて!)

 
広告代理店に勤務する普通の会社員が、会社をやめてフリーランスライターとして独立、ついには沖縄に移住して大学院に進学した!人ひとりの人生をそこまで狂わせた、ウミウシとダイビングの面白さ・不思議さ・奥の深さに迫るウミウシ私エッセイ、ここに爆誕!

珍奇なウミウシたちのエピソードや基礎知識が満載で、ウミウシの入門書としてもおすすめです。
 

中野理枝 著 / 四六判 / 280ページ

ISBN 978-4-8299-7257-1  

2025年1月18日発売

定価2,640円(本体2,400円+10%税)


各種書店、オンラインサイトで予約受付中!


Author Profile

中野 理枝(なかの りえ)

1983年3月早稲田大学卒。1987年10月ダイビングのCカー ドを取得。1989年8月広告代理店を退職し、フリーランス ライターに。2007年4月琉球大学大学院 理工学研究科 博士 前期課程に進学。2013年3月同大学院博士後期課程修了。 博士(理学)。2025年現在、公益財団法人黒潮生物研究所 客員研究員・NPO法人全日本ウミウシ連絡協議会理事長。

● 論文などの研究業績や上梓した書籍などについては: https://rienakano.sakura.ne.jp/

● NPO 法人の活動については:  https://ajoa.sakura.ne.jp/  http://www.ajoa.jp/

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