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12/20 2024

ウミウシを食べてみた

第2回 ウミウシはどれくらいの大きさ?

ウミウシ沼に人生をかけてハマった中野理枝さん(公益財団法人黒潮生物研究所 客員研究員・NPO法人全日本ウミウシ連絡協議会理事長)が、ウミウシの基礎知識を紹介する連載『ウミウシを食べてみた』。
第2回は、意外と気になる人が多いというウミウシのサイズについて。みなさんはウミウシってどれくらいの大きさだと思いますか?
(本記事は2025年1月18日発売予定の書籍『ウミウシを食べてみた』からの抜粋記事です)
文・写真:中野理枝

世界一大きなウミウシ

セミナーではさまざまなことを話しますが、意外なほど反響があるのがウミウシの体サイズについて。「ウミウシの多くは体長が1〜3センチ程度です」と言うとびっくりする人が多く、参加者から「お話を聞くまで10センチくらい(と、親指と人差し指でL字型を作って)あるのかな? って思ってました」と言われたことも何度かあります。そのたびに「およその大きさは図鑑に書いといたんだけどなー」などと考えたり、10㎝もあるウミウシが海底にゴロゴロしているさまを想像して戦慄したりしています。
すると先の参加者が「それで質問なんですけど、世界一大きなウミウシって、何ですか?」。
そこで私は我に返り、過去に見た最大サイズのウミウシの話をします。それは八丈島の海底で見た、というより遭遇したミカドウミウシ。岩の上にどーんといたので、指で測ってみたところ、約60㎝もありました。

1.撮影地は沖縄。体長は20cm。写真提供=大場義直(ダイビングチーム・クール)

2.撮影地は和歌山。体長は35cm。写真提供=対間大将(マリンステージ串本)

3.撮影地は和歌山。体長は30cm。写真提供=又野賢一(串本ダイビングセンター)

写真1〜3:ミカドウミウシ。インド-太平洋に広く分布する、赤くて大きくて体の縁がゆるくカーブしていて、何かの拍子に泳ぎ始めるウミウシ。2023年に「ミカドウミウシって実は1種じゃなくて5種だった!」的な内容の論文が発表された(Tibirica et al. 2023)。Tibiricaさんらによると、5種のうち3種が日本に分布し、写真1(これがミカドウミウシ)と、写真2と3は別種(かつ新種)だそうです。ただし遺伝子解析をせず形態のみで新種記載されているので、全面的に信用していいのか疑問は残ります。それにしても学名を用いずに分類を語るのは難しい!

ところでミカドウミウシは人気者のドーリス類とよく似た見た目をしています。違う点のひとつが背面を含む体の部分(外套膜といいます)のふちがゆるく内側にカーブしていること。体は全体に赤色で、カーブした外套膜のへりの内側は白色です。そしてつつかれるなどの刺激を受けると、ミカドウミウシはカーブした外套膜のふちをバッ! と広げます。白色部分がバッ! と目立ち、見た目の面積も増えるので、つついたほう(私ではなく、魚などの捕食者)はドキッとします。この動きをフラッシングといいます。
話を戻すと、八丈島で見たミカドウミウシの背面にはウミウシカクレエビが乗っていました。ウミウシカクレエビはミカドウミウシやニシキウミウシなどの背面に乗っていることが多い小さなエビです。

ウミウシカクレエビ(写真:photolibrary)

ミカドがフラッシングをしたらウミウシカクレエビは落っこちてしまうかも、せっかくウミウシの背中でのんびりしているのに申し訳ないかな、などと一瞬思ったのですが、どうしてもフラッシングが見たくて外套膜をつついてみたところ、案の定ミカドウミウシはフラッシングをしました(エビは落ちませんでした)。フラッシングをして「ドキッとさせてやったから、もう大丈夫だろう」と油断した(?)ミカドウミウシをさらにつつき続けると、ミカドウミウシは「しつこいなあ」と言わんばかりに離陸し、外套膜をヒラヒラさせて泳ぎ始めました。

グラマラスな外套膜をのたくって泳ぐさまが派手なスカートをひらひらさせて踊るフラメンコダンサーのように見えることから、ミカドウミウシは英語圏ではスパニッシュダンサーと呼ばれていますが、水中でのたくるミカドウミウシを眺めて、「フラメンコダンサーというよりは泳ぐ座布団だなー」と私は思いました。ところでこの座布団、もといダンサーは案外持久力がなくて、1分程度で泳ぎ疲れて海底に沈んで転がってしまいました。それでも元いた場所からは離れられたので、ひとまず捕食者回避はできたつもりなのでしょう。
話を再び体サイズに戻すと、外套膜を広げた状態だと、八丈島のミカドは70㎝近くあったのではないでしょうか。相手は水中でのたくってるので、さすがにきちんとは測れませんでしたが。
セミナーなどではミカドの紹介をして大きなウミウシについての話は終わりにすることが多いのですが、実は上には上がいて、ゾウアメフラシというアメフラシの仲間は体長が70㎝以上になります。ゾウアメフラシも水中を泳ぐことが知られています。しかし泳法はミカドとは異なり、体の左右にある半円形の大きな側足をはためかせて泳ぎます。ミカドが「敵から逃れられるなら行先はどこでもいいや」的にめくらめっぽうにのたくるのに対して、ゾウアメフラシは「自分はあそこまで泳いで行きたいっす」的な強い意志を感じさせる泳ぎっぷりを見せてくれます。
 
(では世界一小さいウミウシは? なんと、◯◯◯の中にすむウミウシだった…! 続きは2025年1月発売の『ウミウシを食べてみた』にて!)

 
広告代理店に勤務する普通の会社員が、会社をやめてフリーランスライターとして独立、ついには沖縄に移住して大学院に進学した!人ひとりの人生をそこまで狂わせた、ウミウシとダイビングの面白さ・不思議さ・奥の深さに迫るウミウシ私エッセイ、ここに爆誕!

珍奇なウミウシたちのエピソードや基礎知識が満載で、ウミウシの入門書としてもおすすめです。
 

中野理枝 著 / 四六判 / 280ページ

ISBN 978-4-8299-7257-1  

2025年1月18日発売

定価2,640円(本体2,400円+10%税)


各種書店、オンラインサイトで予約受付中!


Author Profile

中野 理枝(なかの りえ)

1983年3月早稲田大学卒。1987年10月ダイビングのCカー ドを取得。1989年8月広告代理店を退職し、フリーランス ライターに。2007年4月琉球大学大学院 理工学研究科 博士 前期課程に進学。2013年3月同大学院博士後期課程修了。 博士(理学)。2025年現在、公益財団法人黒潮生物研究所 客員研究員・NPO法人全日本ウミウシ連絡協議会理事長。

● 論文などの研究業績や上梓した書籍などについては: https://rienakano.sakura.ne.jp/

● NPO 法人の活動については:  https://ajoa.sakura.ne.jp/  http://www.ajoa.jp/

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