第4回 ウミウシの死にざま
ウミウシ沼に人生をかけてハマった中野理枝さん(公益財団法人黒潮生物研究所 客員研究員・NPO法人全日本ウミウシ連絡協議会理事長)が、ウミウシの基礎知識を紹介する連載『ウミウシを食べてみた』。
第4回は、ウミウシの死にざまについて。
ウミウシウォッチャーの筆者だからこそ目撃できたウミウシの死にざま。
その最期はなんと、ふわっと溶けてしまう!?
(本記事は2025年1月18日発売予定の書籍『ウミウシを食べてみた』からの抜粋記事です)
文・写真:中野理枝
大学院生だった頃、東京から来た友人と、沖縄本島東海岸某所にダイビングに行きました。初夏になると見られる赤色の派手なウミウシ、アカマダラツガルウミウシが友人の目的です。
海底に目をこらすと、いました。見つけたアカマダラツガルの鰓付近からは白いコペポーダ(通称コぺ)の卵塊が出ています。
アカマダラツガルウミウシ。鰓付近にある4本のウインナーソーセージのようなもの(丸で囲んで拡大した)が、このウミウシに内部寄生したコペポーダが産出した卵塊
アカマダラのコぺ寄生率って高いなぁ、どんな具合に寄生されてるのかな、解剖して見てみたい。との思いがわき上がってきましたが、そのツガルウミウシはダイバーの間では人気者なので採集は断念。他のウミウシも見て回る、通常のウミウシウォッチングをしてその日のダイビングは終了しました。
その翌々日、今度は1人で海に行きました。もちろん採集が目的です。が、その日のアカマダラは一昨日と違い、なぜか横倒しになっていました。コぺの卵塊はついていません。
「もしもし? 大丈夫ですか?」というつもりで、筆でつんつんしてみたのですが、ウミウシはぴくりとも動きません。それもそのはず、そのウミウシは死んでいたのです。
死んだ瞬間から腐敗が始まるので、もはや固定しても意味がない……と、死体はそのままにしてダイビングを続けたのですが、気になったので翌日も同じ場所に行ってみました。
そのウミウシは半分以上溶けており、筆でさわるとふわっと溶け崩れてしまいました。
コペポーダの寄生の他に、魚や甲殻類に捕食されて命を落とすウミウシもいます。ウミウシばかりを狙う捕食者、つまりウミウシの「天敵」は存在しませんが、ベラやフグのように何でも食べる悪食な魚やワタリガニやエビなどの甲殻類には、有毒物質などの盗品を駆使するウミウシの生存戦略は効果がないようです。
(ではそんな敵に遭遇しなければ、ウミウシはどのくらい生きられる
広告代理店に勤務する普通の会社員が、会社をやめてフリーランスライターとして独立、ついには沖縄に移住して大学院に進学した!人ひとりの人生をそこまで狂わせた、ウミウシとダイビングの面白さ・不思議さ・奥の深さに迫るウミウシ私エッセイ、ここに爆誕!
珍奇なウミウシたちのエピソードや基礎知識が満載で、ウミウシの入門書としてもおすすめです。
中野理枝 著 / 四六判 / 280ページ
ISBN 978-4-8299-7257-1
2025年1月18日発売
定価2,640円(本体2,400円+10%税)
各種書店、オンラインサイトで予約受付中!
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Author Profile
中野 理枝(なかの りえ)
1983年3月早稲田大学卒。1987年10月ダイビングのCカー ドを取得。1989年8月広告代理店を退職し、フリーランス ライターに。2007年4月琉球大学大学院 理工学研究科 博士 前期課程に進学。2013年3月同大学院博士後期課程修了。 博士(理学)。2025年現在、公益財団法人黒潮生物研究所 客員研究員・NPO法人全日本ウミウシ連絡協議会理事長。
● 論文などの研究業績や上梓した書籍などについては: https://rienakano.sakura.ne.jp/
● NPO 法人の活動については: https://ajoa.sakura.ne.jp/ http://www.ajoa.jp/
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