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11/9 2018

ミノムシ(蓑虫)が減っているって本当? ――絶滅危惧種になったミノムシの最新事情

秋の深まる頃、風物詩の昆虫といえば、ミノムシ(蓑虫)を思い浮かべる人は多いと思う。私たちにとってそんな馴染み深いミノムシ、でも意外とその特徴や生活史については良く知られていないが現状ではなかろうか。
そこで本稿では、日本産ミノムシについて紹介していく。

ミノムシとは?

そもそもミノムシとは、ミノガ科というグループに属する蛾の幼虫の総称で、日本で約40種類ほどが知られている。
その中でもよく見かけるのが「オオミノガ」「チャミノガ」の2種である。

オオミノガの蓑

チャミノガの蓑

蛾の仲間は、冬期の過ごし方が、卵、幼虫、蛹、成虫とさまざまであるが、日本産ミノガ科については、秋に成虫になるごく一部のミノガ(ネグロミノガ、アキノヒメミノガ)を除いてほとんどが幼虫で越冬する

ミノムシはどのように簑を作るのか

一生を蓑の中で過ごすオオミノガの雌成虫は、蓑の中で産卵する。初齢幼虫は蓑の中で孵化し、孵化直後の幼虫は、まだ蓑をまとっていない裸の小さな幼虫である。
初齢幼虫は、風に乗って分散し、着地した木の枝や葉の上で、口から吐いた糸で葉や枝の表皮の断片を素材に、最初の蓑を作るその後ミノムシは、カラダの成長に合わせて、蓑素材の葉や枝の大きさを少しずつ替えながら、蓑を大きくしていく。
 
蓑は、外界から身を護る大事なシェルターであり、ミノムシは蓑の中であれば冬の季節を快適に冬眠して過ごせるのである。

もっとも身近なミノムシはじつは外来種?

前述したオオミノガだが、本種の原記載は、インドネシアのスラウェシ島から見出された標本から記載され、東南アジアから東アジアの広域に分布する種類であることが知られている。
 
日本では街路樹や公園、果樹園、人家の生垣などの人工的な環境に依存している。また、2002年に日本生態学会により刊行された『外来種ハンドブック』によると、昆虫類の「外来種リスト」にオオミノガが挙げられており、外来種であることが報告されている。
 
東京大学総合研究博物館には、日本最古の昆虫標本が保管されている。これらは約200年前の江戸時代の本草学者「武蔵石寿(むさし せきじゅ)」により製作されものであるが、それらの標本の中に、ミノムシの蓑の標本(オオミノガ、チャミノガ)が入っている。これらの蓑の標本記録は、オオミノガが生息する人為的な環境が、江戸時代末期にすでに存在していたことを示す極めて貴重な標本記録であると言えよう。

ミノムシが絶滅の危機・・・。その原因とは?

ミノムシの生息数が減少傾向にあることをテレビや新聞でご覧になられた方も少なくないと思う。
 
そのなかでもオオミノガは西日本を中心に激減した種類のひとつといえる。
1990年代後半、筆者の暮らしている東京近郊においても数年間ほとんど見かけなくなった時期があった。
 
オオミノガ減少の原因は、オオミノガに特異的に寄生するヤドリバエ(幼虫が他の昆虫に捕食寄生をする)が中国大陸から日本に侵入してきたためと言われている。現在、6つの都道府県(福岡県、高知県、愛媛県、徳島県、山口県、神奈川県)において、オオミノガのRDB(レッドデータ)の指定がなされており、状況の深刻さがうかがえる。
 
ところが、関東地方では近年、再びオオミノガの蓑の姿を見かけるようになった。昆虫愛好家の間でも、「オオミノガを再び見かけるようになった。復活した。増えた。」という話題をよく聞く。さて、現状はどうか?
増えたとはいえ、25年前と比べると、母集団としてのオオミノガの数は確実に減少したと言える。たまに数十数百の越冬オオミノガの集団を見ることがあるが、100%に近い割合で、ヤドリバエの寄生を受けている。
以前数百個体以上のオオミノガが発生していた街路樹の蓑を高枝切ばさみで40個体採集し、蓑の内部の生育調査を行ったところ、40個体全てがヤドリバエによる寄生を受けていた。

オオミノガの簑(すべて寄生)

蓑の中身とヤドリバエの囲蛹

翌年の春、100個体以上を残している同じ街路樹を再度調査、観察を行ったが、オオミノガの成虫が羽化したとみられる羽化蓑は1個体も見出せなかった。
 
近年、オオミノガが安定して周年経過を繰り返しているような場所はほとんどなく、多くても数個体が羽化する程度である。また、オオミノガは、毎年適度に剪定が施され、風通しと日当たりのよい生垣や街路樹に生息することが多い。オオミノガの雌成虫は蛹から成虫になる過程でハネを無くして飛べないため、移動手段を持たない。しかし、蓑の中で雌成虫が産卵した孵化幼虫は、風に乗って周囲に移動分散している。

種類ごとに異なる簑

一般的に蓑が外敵から身を守るシェルターの役目を果たしていることは、以前から言われている。生葉を食し、小枝や葉っぱを蓑の素材にするオオミノガやチャミノガは、ミノガ科の中でも進化的に見てかなり進んだ仲間である。
 
ところが、ミノガ科の仲間でも原始的なミノガの仲間は、蓑の素材に砂や地衣類・コケ植物、昆虫の死骸の断片などを利用している

ヒロズミノガ:日本産で最小のミノガ。蓑の素材に砂や小石を用いている

コケヒロズミノガ:蓑に緑色の蘚類を蓑にまとっている

シロテンチビミノガ:蓑は鮮やかな緑色を呈しており、緑白色の粉状地衣からできている

キノコヒモミノガ:蓑は樹皮上の菌類(キノコ)や地衣類からできている

ミノムシを観察しよう

公園、人家の生垣、河川敷、街路樹、その他施設の緑地帯などは、オオミノガやチャミノガの蓑を探すのに良好な観察・採集ポイントである。
すなわち人間臭いエリアこそ、ミノガの幼虫であるミノムシが好んで生息する環境であると言える。
それだけではない。神社の石碑、狛犬、石灯篭、回廊や、建物の壁面、人家や施設を囲うブロック塀、緑地の多い道路のガードレールや電信柱にも、注意深く観察すると、小さなミノガの幼虫のミノムシを見つけることができる。

ガードレールでミノムシ採集

神社の玉垣でミノムシ採集

実際のところ、ミノガの仲間には未だに未記載種、未記録な種が多くいる。今後日本産のミノガは確実に50種類を越えるものと思われる。
 
最近では、山深い峠の道路脇に置かれていたお地蔵様に付いていたミノムシから、新種として記載・発表されたミノガもいる。
 
本稿を読まれた皆様も、お住まいの周辺で、是非ともミノムシ観察をされてみてはいかがでしょうか?
もしかすると、新たな発見があるかもしれません。

 
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Author Profile

新津 修平

1971年,東京都生まれ.博士(理学).首都大学東京大学院理学研究科客員研究員/国際基督教大学大学院アーツ・サイエンス研究科(理学)研究員.
専門は昆虫発生生物学.鱗翅類のハネの退化について研究をしている.

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