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8/23 2019

あなたの知らない○○ワールド

第7回 ウオノエの世界  ~カワイイ顔して、魚に寄生する甲殻類

ウオノエ科には様々な形や色の種がいます。左から、フグノエ、ナミオウオノエ、ウオノコバン、マンマルウオノエ、ソコダラエラモグリ(※ソコダラエラモグリの色は標本固定の影響もあります)。

著者は子供の頃から昆虫や恐竜よりも魚が大好きで、それが高じて、大学で魚の生態について研究をしてきました。そんな魚少年だったはずの著者がひょんなことからはまってしまった「沼」が、魚に寄生するウオノエという生き物です。ウオノメじゃありませんよ、ウオノエです。漢字で書けば「魚之餌」。魚の口の中から見つかるので、昔の人は魚の食べ物(餌:え)だと思ったのかもしれません。ところが実際はその逆で、食べられているのは魚のほう。その上、ウオノエの仲間にはウオノコバンやサヨリヤドリムシなど魚の口の中以外に寄生する種類もいて、形や色も多様です。今回は、そんな「かっこよくて愛くるしい寄生生物」ウオノエについてご紹介します。

ウオノエってどんな生き物?

ウオノエは、広く言えばエビやカニと同じ、いわゆる甲殻類の一種です。分類学上は、節足動物門・甲殻亜門・軟甲綱・フクロエビ上目・等脚目(とうきゃくもく)・ウオノエ科に属する生物で、等脚目の別の科にはダンゴムシやフナムシ、深海ブームで一躍有名になったダイオウグソクムシなどが含まれます。ウオノエ科は現在42属約360種が知られており、そのすべてが寄生性で、世界中に広く生息しています(以下では、ウオノエ科の総称を「ウオノエ類」と表現します)。ウオノエ類の種数が特に多い地域は東南アジア周辺のインド−太平洋域で80種近くにのぼりますが、種数が少ない地域では調査があまり行われていないだけという可能性もあります。実際、近年になってアフリカ南部やハワイ、そして日本からも新たな種が報告されており、今後さらに種数は増えると考えられます。ちなみに日本周辺からは12属35種が報告されています。
 
体の構造は頭部、胸部、腹部、尾部からなり、さらに胸部は7つの節(胸節)、腹部は6つの節(腹節)で構成されています。しかし、第6腹節は尾部(尾節)と融合しているため(これを腹尾節といいます)、腹部の体節は5つに見えます。胸脚の先端(指節)は鉤(かぎ)状に鋭くとがっており、これで魚にがっしりとしがみつきます。「フクロエビ」という名前が示すように、繁殖時にはメスの腹部に薄い板状の組織(覆卵葉、ふくらんよう)が重なるようにしてできた育房(いくぼう)が形成され、その中で卵は孵化するまで保護されます。

ウオノエ類の基本的な構造

ウオノエ類の胸脚の先端部分(指節)。魚の組織に食い込ますために鋭くとがっている。

孵化した個体はやがてマンカ幼生と呼ばれる幼生期になり、水中に泳ぎ出て新しい宿主を探します。これまでの研究から、ウオノエ類は宿主が小さい時に寄生して、宿主と一緒に成長していくのではないかと考えられています。ウオノエ類の生活史の大きな特徴として、このマンカ幼生期をもつことのほかに、雄性先熟(ゆうせいせんじゅく:雌雄同体の生物で、オスとしての生殖器官が先に成熟すること)であることがあげられます。お目当ての宿主に寄生することに成功したマンカ幼生は、脱皮を経ながらまずオスになりますが、同じ宿主上に先に寄生している個体がいない等の条件がそろえば、その後なんとオスからメスへと性転換します。そして、後から来たオスとペアを作って繁殖します。そのため、多くの場合メスのほうが大きく、魚1個体にオスとメスの1ペアが寄生しています(3個体以上寄生する種もいます)。成熟した個体(特にメス)は遊泳能力が失われ、そのまま同じ宿主の上で一生を終えると考えられています。
 
また、ウオノエ類は魚の血液などをエサとしていると考えられています。しかし、食性についての研究はまだまだ少なく、すべての種が吸血性なのか、年中吸血しているのか、はたまた生活史の中の一時期に吸血するするのかといったことはあまりよくわかっていません。「寄生虫」と聞くと宿主におんぶにだっこで楽な生活を送っていると思うかもしれませんが、小さい時に新たな宿主を見つけて水中を泳ぎ回り、宿主に身をゆだねてパートナーが来るのを待ち続けるというのはなかなか大変な生き方かもしれません。

ウオノエはどこに生息しているの?

ウオノエ類は魚の寄生虫としてはかなり大きい部類(だいたい2〜4cmくらいで、5cmを越える種もいます)ということもあり、釣りをする人や魚屋さんなど、特に海の魚と接する機会の多い人にとっては馴染みのある寄生虫かもしれません。なので、ウオノエと聞くと海の生き物と思われる方も多いのではないでしょうか。たしかに海に生息するウオノエ類はかなりの割合を占めてはいるのですが、実は川や湖などの淡水に生息しているグループもいます。淡水に生息するグループを大きく分けると、1つは南米のアマゾン川流域などに生息しているグループで、もう1つが東アジアからアフリカにかけて生息しているグループです。後者は1つの属(Ichthyoxenos属)に属していますが、なんと日本からも琵琶湖周辺で2種が記載されています。主にタナゴの仲間の腹腔に寄生する珍しい生態をもっており、片方にはタナゴヤドリムシという和名も付いています。

魚のどこに寄生する?

寄生部位の話が出たところで、ウオノエ類が魚のどこに住んでいる(寄生する)のかを見ていきましょう。冒頭でウオノエ類は魚の口の中以外にも寄生すると述べましたが、メスの位置を基準にして分けるとおよそ4つの寄生部位に分けられ、種ごと、中には属ごとにどこに寄生するのかが決まっています。

・口の中(口腔)
まず1つ目が、ウオノエの語源ともいえる魚の口の中(口腔)です。このタイプのほとんどの種は魚の舌付近にしがみついて定位しますが、タイノエ Ceratothoa verrucosa (Schioedte & Meinert, 1883)などの一部の種では口蓋(つまり、上あご側)に逆さの状態でしがみつきます。

口の中(口腔):多くの種は魚の舌付近に付きますが、写真のタイノエなどの一部の種は口蓋にしがみつくように寄生します。

・エラ(鰓腔)
2つ目は魚のエラ(鰓腔)の部分に寄生する種で、多くの場合、エラの輪郭にぴったり沿うように体が左右非対称な形に曲がっています。一方で、エラの隙間に丸い形で収まっているその名もマンマルウオノエ Ryukyua globosa Williams & Bunkley-Williams, 1994という種もいます。

エラ(鰓腔):魚のエラの外縁に沿うように体をカーブさせて成長する種が多く、体のカーブの向きでどちらのエラに寄生していたのかがわかったりします。写真はサヨリヤドリムシ。

・体表
3つ目は魚の体表です。これは皮膚であったり、ヒレであったりにしがみついているのですが、体表のどこにつくのかも種によってある程度決まっているようで、たとえば魚の眉間に寄生していて、まるでチョンマゲをつけているかのように見える種も海外では知られています(webで「Soldier Fish Parasite」と検索してみてください)。

体表:寄生していると一番見つけやすそうですが、ヒレに寄生していると色や柄が似通っており、意外と見落とされて鮮魚売り場でも見かけたりします。写真はウオノコバン。

・腹腔(ふくこう)
そして、最後は最も珍しいタイプで、魚の腹腔に穴を開けて寄生します。このタイプのほとんどは淡水種で、アジアと南米に生息しており、海水種としては唯一1属1種だけがオーストラリア近海で報告されています。穴を開けるといっても魚の腹を完全に食い破ったら水が入ってきてしまい魚は死んでしまいます。そこがこのタイプのウオノエ類の巧みなところで、魚の組織を腹腔内に向かって押し広げてポーチ状の空間を作り、その中で暮らすという芸当をやってのけています。イメージとしてはズボンのポケットのような構造です。外界に通じる穴は開いていますが、膜でさえぎられているので魚の内臓が浸水することはありません。著者がはじめてこのタイプのウオノエ類であるタナゴヤドリムシを観察した時は、あまりの巧妙さに感動したのを今でも覚えています。

腹腔:もっとも稀有な寄生様式。点線の腹腔部分にメス(左)とオス(右)がポーチ状の袋で収まっており、魚の胸鰭の後ろに開いた小さな侵入孔(赤線)で外界とつながっています。写真はタナゴ類の腹腔を開いて出てきたタナゴヤドリムシ。

ウオノエは縁起物?

『水族寫真 鯛部』[3] より、鯛之福玉の図

ウオノエ類は意外と古くから日本の民衆に認識されていたようで、その証拠の一つとして江戸時代に奥倉辰行(魚仙)によって描かれた『水族写真』にでてくる縁起物「タイの九つ道具」が挙げられます。
タイの体の中には大龍や鯛中鯛(たいちゅうのたい)と呼ばれる特徴的な形をした骨が8種類あるのですが、9つ目としてあげられているのが「鯛之福玉」で、これが何を隠そうウオノエ類の一種そのものなのです。
 
あれ? タイから出てきたからタイノエじゃないの? と思いませんでしたか。「ウオノエ類の一種」とあえてぼかしたのは、日本産のタイ科の口内に寄生するウオノエ類は実は2種いるためです。

タイノエとソコウオノエの正面と背面の比較。タイノエの成熟メスは第一胸節がしわ状で、背のカーブが平ら気味なのに対して、ソコウオノエの場合は第一胸節は比較的なめらかで、背のカーブはドーム型(※色味や柄は個体差や時間経過によるもので、基本はどちらも乳白色です)。

1つはタイノエで、マダイやチダイに寄生します。もう1つは、マダイよりも安価な「鯛」として流通しているキダイ(一般にはレンコダイとも呼ばれます)に寄生するソコウオノエ(Ceratothoa oxyrrhynchaena Koelbel, 1878)という別の種で、高級魚であるアカムツにも寄生するウオノエ類です。タイノエとソコウオノエは全体的な形状(タイノエの背面は比較的平ら、ソコウオノエはアーチ型)や口内で寄生している場所が異なるので(タイノエは上あご側、ソコウオノエは舌側)、専門的な知識がなくてもメスであれば比較的簡単に見分けがつきます。
そういうわけで、SNSなどで「鯛を食べたら、タイノエが出てきた!」という投稿にタイの写真が写っていなくても、その人がマダイ(あるいはチダイ)を食べたのか、キダイを食べたのか、著者には予想がつくわけです。
 
さて、話を戻して奥倉の画ですが、どちらのウオノエ類に見えるでしょうか?あなたの目でぜひ確かめてください。
 
国立国会図書館デジタルコレクション『水族寫真 : 鯛部』
http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/2558215?tocOpened=1

ウオノエはどんな味?

ところで、著者はまだ行ったことはないのですが、深海ブームも相まって最近ではオオグソクムシを料理として提供してくれるお店もあるそうです。そして、「オオグソクムシがおいしいのだから、ウオノエもおいしいはず」と考える人は少なくないようで、webを検索すれば焼いたり揚げたりといろいろなウオノエ料理も出てきます。さすがに、大手料理レシピサイトでウオノエのレシピを見つけた時にはおもわず笑ってしまいましたが、味の評価は総じて良好で、濃厚なエビ味といった感想が多いようです。実は漁業の盛んな地域によっては古くから食用にしていたのではないかと思われる情報もあり、食文化の観点からウオノエ類を調べてみるのも面白いかもしれません。昔から食べているという地域をご存知でしたらぜひご教示ください。

ウオノエを集めよう

食べるか食べないかはともかく、寄生虫の研究をする時に苦労することはなんだと思いますか? 世間の冷たい目? それもないとは言いませんが(悲しい思い出が…)、意外に大変なことは寄生虫を集めることそれ自体です。
 
寄生虫を採集しようとすると、大抵の場合はまず宿主を集めて、そこから寄生虫を探すことになります。どこにでもいる寄生虫なら簡単なのですが、稀にしか寄生していない寄生虫を集めようと思ったら、宿主を100個体、200個体と採集して、ようやくお目当ての寄生虫が手に入るかどうか、ということになります。これでは研究は進みません。そこで欠かせないのが、日本各地の研究者や漁業関係者、一般の方の温かいご協力です。実際、ウオノエ類の中には寄生率が低かったり、そもそも宿主魚自体がなかなか採れなかったりする場合もあり、全国から送っていただいた情報や標本が著者の研究を進める上で大変役立っています。
 
あなたももしウオノエ類に興味をもったなら、ぜひ集めてみませんか。難しそうに思うかもしれませんが、いわゆる普通種であればわりあい簡単に出会えます。もしかすると、あなたの近くでは珍しいウオノエ類が生息しているかもしれません。日本に生息するウオノエ類の中で入手しやすいものとしては、以下の7種が挙げられます(この中で言えば、体表寄生の2種が少し難易度高めです)。
 
ウオノコバン(体表寄生、宿主:スズキ、クロダイ、マハゼなど)
イワシノコバン(体表寄生、宿主:マイワシ、サバ類など)
タイノエ(口腔寄生、宿主:マダイ、チダイなど)
ソコウオノエ(口腔寄生、宿主:キダイ、アカムツなど)
シマアジノエ(口腔寄生、宿主:カイワリ、シマアジなど)
ナミオウオノエ(口腔寄生、宿主:マルアジなど)
サヨリヤドリムシ(エラ寄生、宿主:サヨリなど)

サヨリヤドリムシを含めたエラ寄生のウオノエ類の多くは、片側のエラにメスが、反対側にオスが寄生します。観察するときは反対側のエラも忘れずに。

これだけで、口腔寄生、エラ寄生、体表寄生の3タイプが手に入ります。まぁ素敵。
 
まず王道は、魚を釣って手に入れるという方法です。上に挙げたウオノエ類の宿主はすべて釣りの対象となる魚ですし、マイワシやサバ類、サヨリ、マハゼなどは堤防など陸からでも釣ることが出来ます。特にサヨリは寄生率が高いので、数匹釣れればサヨリヤドリムシが見つかると思います。
 
もう一つの方法は、近所のスーパーなどの鮮魚コーナーに行ってみることです。タイ類やカイワリ、サヨリなどは切り身にせずに丸々売られていることも多い魚です。口が開いている魚を注意深く覗き込んでみると、向こうからもつぶらな瞳が覗いているかもしれません。ただし、くれぐれもお店の迷惑になるようなことは慎みましょう。ウオノエ類を運よく見かけたら、騒いだりせず、魚ごと購入して、家に帰ってじっくり観察してみましょう。

これだけサヨリがいたら、半分くらいはサヨリヤドリムシが寄生しています。

エラ蓋が浮き上がっていたり、脚が隙間からのぞいていたりすると(矢印)、サヨリヤドリムシがいらっしゃいます。

ウオノエの保存方法

見つけたウオノエを保存しておく方法としては、一番簡単なのはラップ等でくるんで冷凍することです。大事なこととしては、魚をさばく時もその後もウオノエを真水には浸けないことです(海水種の場合)。真水に浸けると、浸透圧によって腹肢が風船のように膨らんでしまうことがあり、観察が行いづらくなります。
また、冷凍できない場合(家族に反対されるとか)は、エチルアルコール(エタノール)液浸標本や乾燥標本にするという手もあります。最近は便利な世の中で、エタノールや標本ビンなどもドラッグストアやネットで買うことができます。ただし、エタノールは引火性の高い液体ですので取り扱いには十分注意しましょう。ゴム手袋や保護メガネも忘れずに。観察するだけであれば、70%程度に希釈されたエタノールで十分です。また、エタノールで固定すると生鮮時の透明感はなくなり、いくつかの写真で示しているようにくすんだ色あいになってしまいます。なので、できれば新鮮なうちに観察してみてください。

ウオノエを観察してみよう

ウオノエ類を手に入れることが出来たら観察してみましょう。運よく複数の種が手に入れば、どの部分の形が違うのかを比べてみるのも面白いと思います。

オオエラモグリの正面顔。神々しささえ感じます。

まるで大理石の彫像のような胸脚の造形美。状態の良いものを観察できると寄生生物に対する見方も変わるはず(写真はソコウオノエ)。

高価な顕微鏡がなくても、顕微鏡モードの付いたコンパクトカメラやスマートフォンのカメラに取り付けられる顕微鏡グッズなども販売されており、それらを使えば複眼や胸脚の先端、口器の構造なども観察できると思います。
 
寄生虫の中では比較的知られた存在でもあり、時にかわいいとさえ評されるウオノエですがその生態や多様性にはまだまだ謎の多い生き物です。あなたの身の回りで変わったウオノエを見かけることがあれば、ぜひご一報ください。

Author Profile

川西 亮太

子供のころからの魚好きが高じ、魚類の生態や人間活動とのかかわりを中心に研究。ひょんなことからウオノエにもはまり、寄生性等脚類の生態や進化、多様性の解明も進めている。愛媛大学大学院理工学研究科 博士後期課程修了。博士(理学)。現在、北海道大学大学院地球環境科学研究院 特任助教。
 
ウオノエに関する専門webサイト UONOÉ ʻOLU ʻOLU(うおのえおるおる):
https://uonoe-oluolu.wixsite.com/index
個人webサイト:
https://kawanishir.wixsite.com/index

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