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6/5 2020

虫除けスプレー不要!? おすすめ虫除け服『スコーロンウェア』をジャングルで生物学者が試してみた

東南アジアなどで森の調査・研究を行っている熱帯林研究者の広島大学教授の山田俊弘氏。蚊に刺されてマラリアになったことのある山田先生ですが、そんな研究者が防虫効果があるとされる『スコーロンウェア』をジャングルで着てみたらどうなるのか!?
 
そして、大学生と一緒に幹に実がなる不思議な木を観察したり、ジャングルでタワーに登ったり哺乳類を撮影したり…と、なんだか楽しそうなジャングル研究の舞台裏をご紹介します。

上空から見下ろした熱帯雨林

前回は、乾季で虫がいなかった! そして今回は…?

2019年3月、熱帯林研究者である私は、防虫効果をもつというスコーロン®ウェアの効果をマレーシアの熱帯ジャングルで試した(前回記事:「虫除け対策ってどうしてる? 研究者がマレーシアのジャングルで、着る防虫『スコーロン®』を試してみた(提供:株式会社ティムコ)」)。
この時は一度も蚊に刺されることはなかった……のだが、これが本当にスコーロンウェアのおかげかは疑問が残る裁定となった。
 
というのも、当時、季節はずれの乾燥に襲われていたジャングルでは、ほとんど蚊の姿を見ることがなかったのだ。スコーロンウェアのおかげで蚊に襲われなかったのか、たまたま蚊のいない時期にジャングルに入っただけだったのか……。ともかく、不完全なお試し結果だった。申し訳ありません!
 
そこで、2019年12月、スコーロンウェアの効果検証を、同じジャングルでおこなってきた。
 
今回は雨もよくふっているし、ジャングル内に水たまりもたくさんできている。3月には干上がっていた川も、じゃんじゃん水が流れている。蚊もたくさん発生していることだろう。まさに、検証にもってこいの環境だ!

左:2019年3月(前回)訪れたときのジャングルの様子。雨がほとんど降っていないため、ヤシの周りは完全に干上がっている。 右:2019年12月(今回)のジャングルの様子。左と同じヤシを写す。ヤシの周りが水没していることに注意。

熱帯林での調査の目的

今回の調査では、ブタオザルやダスキールトン(オナガザルの仲間)、シベット(ジャコウネコの仲間)といった樹上生の哺乳類の行動観察がおもな目的。とはいえ、人を前にして哺乳類たちが普段の行動を見せてくれることは期待できない。人に気がついた彼らはおびえ、逃げるような行動しか見せてくれない。
 
そこで、樹上に動物観察用の自動撮影装置(カメラ)を設置し、それを数ヵ月後に回収するというやり方で、設置期間中の彼らの行動を観察しようと目論んだ。今回は、装置の設置をする。
 
しかし、実は今回の調査、これ以外にも隠された目的がある。バレて困るものではないので白状しよう。

タワーの高さ10mの位置に取り付けられた動物自動撮影装置。撮影装置の前に動物が現れると、装置が体熱を感知し、撮影を開始するしくみになっている。樹上生哺乳類の姿を撮影してくれ!

熱帯ジャングルは生きた教材

今回の調査は、現在、マレーシアの大学に半年間の留学中の日本人学生に手伝ってもらうことになっている。こうすることで私は調査を手伝ってもらえるし、彼らは熱帯ジャングルを見ることができ、調査方法を学ぶこともできる。つまり、“教育”が隠された目的。
 
この森ではマレーシアや日本だけでなく、アメリカや中国のチームも研究を進めている。森林生態学の最先端研究の見本市のような場所なのだ。この森だけで多くの研究(手法)を学ぶことができるというわけだ。
 
普段は大学で講義を聞いている彼らではあるが、百聞は一見にしかず。熱帯ジャングルでの経験は、何物にも変えがたい教育効果を及ぼしてくれるだろう。

熱帯樹木の奇妙な形態

熱帯ジャングルを生える樹木には、日本人から見ると奇妙に見える特徴をもっているものが多い。日本では見ることのない特徴が、なぜ熱帯ジャングルで進化しえたのか、その背景に思いをめぐらせながら樹木を観察する。

イチジクの一種(Ficus variegata)の大木。幹に直接、実がついていることに注意。こうした形態は、幹生花(かんせいか)と呼ばれている。

例えば、熱帯のイチジク。イチジクの仲間は日本にも何種か生えているけれども、熱帯に生えるFicus variegataは、(日本人には)奇妙に見える特徴をもつ。直接、幹に実を付けるのだ。この特徴は、幹生花(かんせいか)と呼ばれている。
 
熱帯ジャングルで高く、大きく育つ木の多くは、地上部の幹から根に移る部分が板状に広がる特徴をもつ。板根(ばんこん)と呼ばれる形態だ。

板根が発達した、フタバガキ科の樹木。

また、雨季に冠水するような場所に生える植物は、土壌の嫌気状態を嫌い、呼吸のための特殊な根(呼吸根を)発達させるものが多い。
 
こうした熱帯樹木の特徴を実際に目の当たりにできるのが、野外活動の強みだ。

観測タワー

ジャングル内に設置された、高さ50mの木製タワー。研究のみに使用は限定されている。

この森には、研究用に高さ50mのタワーが作られている。50mというと、ビル15階分くらいの高さだ。
 
今回は、このタワーの10mから20mの高さに自動撮影装置を設置することで、樹上生哺乳類の行動を観察することとした。
 
タワーの頂上まで登ると、このあたりで一番高い木の高さと同じくらいになる。そして、環境の変化に驚かされる。林内ではほとんど感じることのない風が、ここでは心地よく吹いている。涼しく、乾いた風だ。

タワー最上部からの眺め。日本の森では、林冠をつくる木の高さが揃い、林冠が同じ高さで連続的につながっている。対して熱帯ジャングルでは、木の高さがまちまちで、林冠の高さがふぞろいとなる。結果として、非常に複雑な森林構造が作られている。

タワーの最上部にて。帽子はSCダウナーキャップ。こちらもスコーロンウェア。

森の中と森の上の空気の“質”の違いを感じながら、その組成の違いについても(タワーの上で)講義する。林の上の空気のほうが林内の空気に比べ二酸化炭素濃度が高く、湿度が低い傾向にある。この濃度差をうまく測定できれば、森がどれだけ光合成を行っているか知ることができるのだ。そして、その目的でタワーに設置された測器たちを観覧する。熱帯研究の最先端にふれる瞬間だ。
 
学生たちは、タワーの周りの景色にも驚いていた。
 
「あんなところに白い花が咲いている。さっきあの木の下を歩いたはずだけど、花が咲いているなんて、下からはぜんぜんわからなかった!」
 
とか、
 
「こんなに高いところまでたくさんの虫が飛行している。きっとあの花が目当てなのね」
 
などと議論している。ジャングルは上から観察すると、林内から見た姿とぜんぜん違って見えるのだ。
学生たちのこうした反応を見て、“教育”のほうの目的が十分果たされたことを確信した。

着る防虫、スコーロンウェアの効果は!?

そうだ! この記事は、スコーロンウェアの検証実験のためのものだった!
ここで、結果を紹介しよう。
 
今回は前回と違い、林内には蚊がたくさん飛んでいた。学生たちは防虫スプレーで身を守っていたけれども、何度かは、蚊の攻撃を受けてしまったようだ。
 
にもかかわらず、私への被害は相変わらず無し! スコーロンウェア、蚊の多い熱帯ジャングルでも十分効果を発揮する!

それに、熱帯ジャングルでは蚊以外にも、ハリナシバチなどの小型の虫に悩まされることが多い。こうした虫は、直接的に被害を及ぼすわけではないのだけれども、耳元を飛び回り、その羽音のために集中できないことが多々ある。耳元でブンブン言われると、とってもうざったいのだ。
 
学生たちも
「耳の周りでコバエみたいなのが飛んでいて、気になりました」
 
と言っていた。それは、たぶんコバエではなく、ハリナシバチだ。そうした小型の虫にさえ、まったく苛まれることがなかったのだ。スコーロンウェアを忌避するのは、蚊だけではなさそうだ。

優秀だぞ! スコーロンウェア!

今回は、スコーロンウェアの効果をしっかり感じられたという充実感とともに帰国ができそうだ。あとは、樹上哺乳類が撮影されていることを願うばかりだ。
 
 
※この記事は、広島大学IGS今田華鈴さんと東京農工大学吉田美波さんにご協力いただきました。
 
 
もっと詳しい着用ウェアの情報や研究者の防虫対策、ジャングルでの知られざる調査活動については……
こちらの記事で読めます!
 
山田先生の短期連載 「マラリア危機一髪! とある熱帯林研究者の奮闘記」
第1回 なってはいけないマラリアに、なっちゃった

Author Profile

山田 俊弘

広島大学大学院 総合科学研究科 教授.博士(理学)
熱帯林での25年を超える研究歴(植物生態学・森林生態学)があり,毎年数回,インドネシア,マレーシア,ミャンマーなどの熱帯林で調査を行っている.専門は熱帯林の生物多様性とその保全.2015年 日本生態学会大島賞受賞.著書は『絵でわかる進化のしくみ 種の誕生と消滅』(講談社),『温暖化対策で熱帯林は救えるか』(分担執筆:2章ー4担当、文一総合出版),『論文を書くための科学の手順』(文一総合出版),『〈正義〉の生物学』(講談社 ).
ホームページ:http://home.hiroshima-u.ac.jp/yamada07/
ブログ:http://home.hiroshima-u.ac.jp/yamada07/posts/post_archive.html

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