ここ数年人気が高まっている苔テラリウム。
一目惚れで購入して、自宅や会社に飾っている人もいるのでは?
しかし、コケも植物。時間が経つとどんどん生長して買ったときの姿とは違うものになってしまいがちです。
買ったときから伸び放題になってしまったコケは、どう手入れしたらいいのでしょうか?
BuNa編集部が、コケ専門店「苔むすび」店主の園田純寛さんに取材してきました!
ここは、BuNa編集部の冷蔵庫の上……。ひっそりと、小さな苔テラリウムが鎮座しています。
この苔テラリウムは、BuNaの前身であるフリーペーパー『ブンイチvol.2』(※)の企画で作られたもの。製作から約1年半がすぎ、お水をあげているだけなのにモリモリと育っています。
参考:ブンイチvol.2「苔テラリウムをはじめよう! 〜意外と知らない苔の愛で方」
冷蔵庫の上で成長を続けていた苔…
作った当時の状態。山を模して、石を配置しました
1年半が経過したテラリウムのようす。コケが伸び放題になって石も見えなくなっていました!
当初、「登山道」というテーマでコケを配置したものの、最初のころの写真と比べるとコケが伸びすぎてむしろジャングル感が漂うようになっています。これはこれで生命力を感じますが、そろそろお手入れ時期に近づいているようです。
しかし、いざ手入れしようとなると、
「茶色くなっているところがあるけど、水やりが足りない? 切ってもいい?」
「伸びたコケは、このまま増やして問題ないのか?」
「そもそも、最初のコケの形となんか違ってきた……?」
と、コケのごとくモリモリと疑問が湧いてきます。下手に手を入れて、愛するコケが弱ってしまったら悲しい……!
そこで、このテラリウムを一緒につくっていただいた苔むすびの園田さんのもとを訪ねることにしました。
鎌倉にある店舗「苔むすび」。2018年3月にオープンしたばかりの、古民家を改装した素敵なお店です。
写真店内には素敵なコケ作品がずらり。購入もできます
−− 園田さん、今うちのコケはこんな状態なんですが……どう手入れしたらいいでしょうか。
園田さん ああ、これはかなり水が不足しています。
−− か、かなり……!? 週1〜2回水をあげているつもりだったんですが、少なかったんでしょうか。
園田さん 週1〜2回だと本来は多いほうだと思いますが……土がカラカラにならず、土が適度に湿っている(水浸しにならない)程度の水やりがいいですね。
−− そうなんですか。 今までは葉が湿る程度しか水をあげていませんでした。
カラカラの苔テラリウムの内部。葉の先が茶色になってしまっているものもある
園田さん これだと土に全然水が行っていないので、土全体が湿るくらいに水の量を増やしてあげた方がいいでしょうね。霧吹きで1回シュッくらいだと少ない。水が足りていれば、ヒノキゴケはもっと伸びているはずです。
ガーン、丁寧に水をあげていたつもりが全然足りていなかったとのこと。
ポイント:
水やりの際は頻度だけでなく量も考え、土の中まで湿るかどうかを念頭に置こう。
−−となると、コケの先っぽの方が茶色になっているのも水分が少ないからですか?
園田さん 苔が茶色くなるのは水不足のこともありますが、古い葉が自然に茶色くなることも多いです。このヒノキゴケも古い葉が茶色くなっているようで、水不足が原因ではないようにみえます。コツボゴケは育ってくると先端が痛んでくることが多いので、ある程度育ったら傷んだ部分はカットして、長すぎる部分は土に挿し直すと整います。
−−なるほど、髪の毛のようにカットしてセットしなおす必要が出てくるんですね。コケは植え替えるというより、「差し直す」なんですか?
園田さん そうですね。切って新しい芽を待ってもいいんですが、切りっ放しだと切り株みたいになっちゃう。伸びたら根元の部分を切って、切った先端部分のコケをもう一度差し直すといいです。枯れた部分は切って除いてしまって大丈夫です。
※コケは根を持たず本体から直接水分を吸収するので、根元を切っても枯れない
ふむふむ、BuNaの苔テラリウムはかなり乾燥し、コケも伸び放題になってしまっていた模様。
そこで、まずは水分をコケに行き渡らせます。今回は、あまりに土が乾いていたので多めに水を湿らせ、余った水分をスポイトで吸収しました。
水を入れて湿らせている最中の様子。乾燥しているときと、土の色がずいぶん変わる。土全体が湿っている状態が理想的
細長く伸びたコツボゴケ。
本来ならこのように茎は這い、葉はより大きく密につく
−−それにしても、このコツボゴケは特に長く伸びたんですが、「コケはどこまで伸ばしていいんだろうか?」と疑問に思っていました。
園田さん このハイゴケを比較してみるとよくわかるのですが、実はフタ付きのテラリウムの中のコケは、野生のコケと違って、細長くひょろひょろと勢い良く伸び、葉も小さくなるものが多いです。フタがあるタイプのテラリウムが最近流行っていますが、多くのコケはこのように姿形が変わってしまうんですよね。
伸びたハイゴケ。瓶の中で育てると、枝分かれせず、上にひょろひょろと細く伸びていく
ひょろひょろと、1本伸びているように見える
コロニー状のハイゴケ
葉のようなかたちのハイゴケ。本来はこのように太く、枝分かれしながら這っていく
−−見た目がかなり違っていて、同じものだとは思えませんね。伸びた部分というのは、本来の形からするとどこの部分になるんでしょう?
園田さん コケの先端の部分ですね。本来コケは、コロニー(群落)をつくって寄り添うことで水分を保持する構造を作り出しています。でも、フタがあって密閉されたテラリウムになると、湿度が100%近くになり、水分をわざわざ保持する必要がないので、コロニーになる必要もないんですね。だからみんな自分勝手にわーって広がって伸びだして、自由な構造になるのかもしれません。水中で苔を育てるのと似た雰囲気に育つことが多いです。
テラリウム内で長く伸びたホソバオキナゴケ
コロニー状のホソバオキナゴケ。背丈は低く、葉が密になっている
––ホソバオキナゴケも、BuNaの苔テラリウム内で伸びたものと園田さんのフタがない鉢で育てたものでは、ずいぶん形が違いますね。
園田さん そう、同じコケでもフタのあるテラリウムだとコロニーにならなくていいので密度も減るし、背丈が伸びるようになるみたいです。こういうフタのあるテラリウムにすると、ほとんどのコケは本来の姿とは違う伸び方をしますね。本来のコケのイメージと変わるな、と思います。
それと、瓶について石質化した汚れは水ではとれないので、気になるようであればクエン酸を溶かした液を布につけてこする方が落ちやすいです。クエン酸液は苔に直接触れないようにしましょう。
ポイント:
テラリウムのコケは自然状態のコケとは成長の仕方がかなり異なる。
また、コケだけでなく、瓶の汚れにも湿度の影響がある。テラリウムとして長く楽しむためにも水分を切らさないように。
家庭用の掃除用クエン酸で瓶の汚れは落ちる
園田さん じゃあ、次はコケの先端が茶色く変色しているのでそこを除きましょう。たとえばヒノキゴケの先端はカットしてあげて、その先は捨てていいです。1回茶色くなるともう伸びないんですが、横から新芽が出てきたりします。伸びすぎて短くしたいヒノキゴケは根元からばっさりカットします。長い苔を切るだけだと伐り株みたいになってきれいに見えないので、本当だったらこういうふうに差し戻して背丈を低く見せるといいですね。
ヒノキゴケの茶色くなった部分をカット
長くなりすぎたコケも、根元からカットする
カットしたコケの上部を土に差し戻す
深めに戻せば、背丈が低く見える
園田さん コツボゴケは、長く伸びたところや仮根(根に似た、茶色い毛のような部分)がある部分をカットします。ガラスだったり、何か物に触れると仮根が出やすいですね。カットしたコケは別の部分に差し戻してもいいし、別のテラリウムに使っても大丈夫です。
長く伸びたコツボゴケを、思い切ってカット
ホソバオキナゴケも、根元から切り好きなところに差し戻す
診断しながらカットする様子はさながらコケのお医者さん
園田さん 命としてのコケは2年以上もちますが、手入れをしなければ、テラリウムとしての見た目を保てるのはやっぱり2年目くらいまでだと思いますね。明るさなどの環境や苔の種類にもかなり左右されます。
ポイント:
コケが伸びたら必ずカットや差し戻しをしないといけないわけではなく、伸びた状態にしておいてもいいとのこと。ただ、観賞用のテラリウムとして茶色い部分や仮根の生えた部分をカットすると見栄えがよくなる。また、手入れは気になったときにする程度でOKで、時期は選ばなくてもよいそうだ。
あとは、コケどうしの位置を調節すればお手入れ完了。
お手入れ前のボサボサ状態と比べると、スッキリとしたことが一目瞭然! 仕上げに小さいフィギュアを差し込んで、完成。
今回のテーマは「シカとの遭遇」。山でシカとばったり遭遇した感じが伝わっているだろうか。
before (手入れ前。ぼさぼさ)
after (スッキリ! フィギュアを差し込むと、まるで森の中のよう)
−−ちなみに、今年はすごく暑いですけど、室内の温度が高いのはコケにとってはどうなんでしょうか?
園田さん いや〜不安ですよね。コケによりますが、タマゴケなんかは暑さに弱いです。あと、フタつきのテラリウムは蒸れやすいのでサウナ状態になってコケにとってはよくないことがありますね。なので、最近はフタがないタイプのテラリウムもうちではおすすめしています。フタのないタイプはうまくつくればより自然な本来の姿で苔が育ってくれるのも大きな特徴です。
−−買ったテラリウムのフタをそのまま開けてもダメなんですか?
園田さん もともとフタ付きで売られているものは、種類にもよりますが、乾燥が早すぎて扱いにくい場合も多いです。フタを開けるタイプは苔の種類を選んだり、コロニーを考えた植え方が必要だったりと、作る上である程度知識とテクニックが必要になることも多いです。
なるほど、苔テラリウムもまだまだ進化途中なんですね。
フタがなく、開放的な環境の「おちょコケ」。乾燥が好きなオキナゴケが植えられている
苔テラリウムのお手入れから見えてきたのは、テラリウム内の環境に合わせて形を変えているコケの姿。
長くコケを愛でるためには、コケ本来の生き方を知る必要もありそうです。
あなたの家のコケは、いまどんな姿ですか?
苔むすび
苔のインテリア・雑貨の製作・教室(テラリウム、苔編み)、苔庭作庭。苔について広く扱う専門店。
HP:http://www.kokemusubi.com/
Facebook:@kokemusubi Twitter:@Moss_Kamakura
住所:鎌倉市由比ヶ浜2丁目4-22
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