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5/20 2021

アクアマリンふくしまの飼育員さんに聞いてみた!

Vol.1〜サンマの飼育と展示〜

「環境水族館」アクアマリンふくしま

「水族館」とひと口にいっても、その展示の方法や展示している種、テーマにしていることは水族館によってさまざまです。
アクアマリンふくしまは、「生物の自然の姿を見せる」ことに力を注いでいる水族館です。そのため、ショーは行わず、地元福島の海を再現した水槽を展示したり、飼育員さんが採集してきた新種の生き物や、飼育が非常に難しい生き物の飼育展示に挑戦しているそう。
そんなアクアマリンふくしまの飼育員さんに、担当している生き物やコーナーを教えてもらうインタビュー連載。
 
第一回目は、そもそもアクアマリンふくしまとはどんなところなのかの紹介と、サンマの飼育と展示について教えていただきます!

アクアマリンふくしま外観

−− まずは、アクアマリンふくしまがどんな施設なのか教えてください
 
当館は、「海を通して『人と地球の未来』を考える」を基本理念に、人と自然とのかかわり合いや生命の尊さ、自然環境の大切さなどについて理解を深めてもらうことを目的に設立されました。
開館当初よりショーではなく、生物の自然の姿を見ていただくことに力を入れており、自然光が降り注ぐ館内では、植物も配置して、生物が生息する環境を再現しています。
 

黒潮と親潮が出会う福島の海を表現した2つの水槽、「潮目の海」

福島の植生を再現した館内展示

また、サンマをはじめ、他の施設でも展示例がほとんどない生物の飼育展示に挑戦し、生態の解明や生物の保護、自然環境の保全に役立てています。
 
−− 館内での展示のほかに、生き物に触れることができるビーチもあるそうですが,ここは何を目的に作られたのですか?
 
子どもから大人まで自然に興味をもってもらえるよう、体験しながら学べる場所として世界最大級のタッチプール「蛇の目のビーチ」を整備しました。ここでは磯、干潟、浜という海辺の環境を再現していて、裸足になってヒトデやナマコに触れることができます。
 

海辺の環境を体験できる「蛇の目ビーチ」

 
ほかにも体験ができる施設として「BIOBIOかっぱの里」「子ども体験館 アクアマリンえっぐ」もあります。小さな自然を水族館の中で体験させることで、環境にやさしい次世代の育成を目指しています。
 
−− 展示だけではなく、研究の前線でもあり、体験や学びの場になる水族館がコンセプトなのですね。
 
それでは、さきほど「他の施設でも展示例がほとんどない生物」の筆頭として挙げられた「サンマ」について、
飼育員の山内信弥さんに詳しく教えていただきましょう!
 

【サンマの飼育と展示は難しい】

−− そもそもサンマとはどんな魚なのでしょうか?
サンマは北太平洋に広く生息する魚で、日本近海にも来遊します。

サンマ

流れ藻に産み付けられたサンマの卵塊

日本近海では南の暖かい海流の「黒潮」流域で産卵することが知られています。産卵時期は長く、夏以外は産卵しているといわれています。
サンマの卵には糸が付いており、海面に漂う流れ藻に卵を産み付けると、糸が絡まって孵化まで藻と一緒に海面を漂います。産み付けられた卵は水温18℃くらいだと10日ほどで孵化します。
 

孵化前のサンマの卵

孵化直後のサンマの仔魚

通常、太平洋側では春ごろに「黒潮」で孵化したサンマは北上して北の「親潮」流域に入り、北海道の東方沖で夏ごろまで豊富なプランクトンを食べて成長します。そして夏終わりごろになると南下を始め、再び「黒潮」に移動します。
このように、サンマは太平洋側で季節的に南北に広く回遊することが知られています。日本海側にもサンマは分布していますが生息数は太平洋側に比べて少ないようです。
近年ではいろいろな要因でサンマが日本近海にあまり来遊してこない状況が続いており、サンマの不漁が深刻な問題になっています。

 
−− なぜサンマの飼育は難しいのでしょうか?
 
サンマは神経質で鱗が剥がれやすく、皮膚が傷つきやすいため、取り扱いが非常に難しい魚です。
そのため成魚を生きたまま水族館へ持ち帰ることがほとんどできません。また、パニックになると水槽内で暴れて飛び出したり壁に激突したりすることがしばしば起こります。その際に傷を負ったサンマは、ほとんど回復することなく死亡してしまいます。
 
 
−− では、アクアマリンふくしまではどのようにしてサンマを水族館へ持ち帰ったのですか?
 
当館では定置網に入ったサンマの稚魚を水ごと掬って採集したり、サンマが卵を産み付ける流れ藻を探して卵を入手しました。それらの卵や稚魚を育てることで2000年の開館から展示を行うことができるようになりました。
さらに、水温を調節することでサンマの産卵時期をコントロールしたり、人工の産卵床に産ませるなどの工夫で、世界で初めてサンマの水槽内繁殖に成功し、8世代まで継続してサンマを繁殖させることができました。
 

人工産卵床に産み付けられたサンマの卵

水槽内で孵化したサンマ仔魚の群れ

しかし、毎回同じように上手くいくことはありません。時には産卵しないまま寿命を迎えることもあります。寿命が1年半~2年のため、産卵しない場合は他の方法でサンマを入手する必要があります。
その際は、サンマの棒受け網漁船に同乗し、漁獲されたサンマで人工授精をおこなったり、夜間に灯火採集という方法でサンマの稚魚を採集し、展示継続の危機を乗り切った時期もありました。
 

−− 飼育していて特に難しいと感じることは何ですか?
 
近年ではサンマの不漁の影響で上記の方法でさえサンマを入手することが困難になってきましたが、現在は再び水槽内繁殖を行うことにより展示を継続しています。
とはいえ、サンマを育てること自体も一筋縄ではいきません。稚魚が育たず全滅してしまうこともしばしばあります。今はまだいいですが、長期的な視野で見ると水槽内繁殖だけではサンマの展示継続は難しい状況といえます。問題が解決し、日本近海にサンマが多く来遊してくることを願います。
 
 

飼育作業中

−− 最後に、サンマの展示の見どころを教えてください。
 
サンマの展示を見る時のポイントは泳ぎ方です。サンマは、蛇のようにくねるような泳ぎ方をします。
特に餌を食べるときは、その泳ぎ方が顕著になります。ほかの魚とは異質な泳ぎ方に注目してもらえると、よりサンマについて深く知ることができると思います。
 
 
 

−− アクアマリンふくしまでサンマの展示を見るときは、泳ぎ方に注目ですね。
次回は「親潮アイスボックス」コーナー担当の松崎浩二さんに、新種発見や採集についてお話しを伺います!

Author Profile

山内信弥

ふくしまの海グループチームリーダー 「ふくしまの海~大陸棚への道~」エリア主担当

大阪府枚方市出身 東海大学海洋学部水産学科卒業。2004年よりグリーンアイプロジェクトメンバーとなり、インドネシアとタンザニアでシーラカンスの調査に参加。現担当である「ふくしまの海~大陸棚への道~」は、深海生物をメインとして展示するコーナーですが、福島県沖合で漁獲されるサンマ、キアンコウ、ミズダコなども展示しており、県内水産物を紹介するコーナーともなっています。また、シーラカンス調査の経験を元に、国内でROV(自走式水中カメラ)による深海生物の調査や採集も行っています。

 

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