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6/25 2021

アクアマリンふくしまの飼育員さんに聞いてみた!

Vol.2〜新種の発見と展示の道のり〜

「生物の自然の姿を見せる」ことに力を注いでいる水族館、アクアマリンふくしまの飼育員さんに、担当する生物やその飼育について聞いてみる連載の第2回、今回は「親潮アイスボックス」のチームリーダーで、ハゴロモコンニャクウオや、シラユキモロトゲエビを発見し、親潮アイスボックスでそれらを含む新種の展示を担当しているという松崎浩二さんにお話を伺います!

25cm角の窓から覗く「親潮アイスボックス」

−− 担当されている「親潮アイスボックス」ではどんな展示をしているんですか?
 
親潮アイスボックス水槽は2016年にリニューアルしたコーナーです。ここでは東北地方や北海道に生息している冷たい海の生き物たちを、48個の水槽に分けて約70種類、500匹を展示しています。
1つ1つの水槽は25cm角の小窓からのぞくかたちですが、北の海の生き物たちは、小さくても体の形がおもしろかったり色が鮮やかだったりするので、お客さんが水槽の中をのぞき込みながら、自分の気に入った生き物を発見してもらえればいいなと思っています。
 
 

親潮アイスボックスの展示

 
−− なぜ小さな水槽で展示することを選んだのでしょうか?
 
今、5mを超えるジンベエザメを複数飼育できるような、何万tもある水槽をもつ水族館が世界中で続々と建設されていますが、小さな生き物たちは、大きな水槽に一緒に入れてしまうと岩陰や海藻に隠れてしまい全く目立ちません。
このコーナーではあえて小さな生き物たち1種類1種類をクローズアップして、ご紹介しているのが特徴です。
水槽は約1~3℃の冷たい海水で管理しており、見た目には分かりませんが、水槽の厚さも10cm以上あって、冷気を逃さない構造になっています。家庭で使う金魚などの水槽の厚さは、5mm~1cmなので、その10倍以上の厚さの水槽を使って、北の海の生き物たちを展示しています。
 

飼育作業の様子

−− 親潮アイスボックスでは現在約10種の新種や日本で初めて見つかった生き物なども展示しているそうですが、どのようにして新種を発見、展示しているのですか?
 
新種の生き物が水族館で皆さんの前にお披露目されるまでには、3つのステキな出会いが必要です。
まずは生き物との出会いハゴロモコンニャクウオシラユキモロトゲエビなど、初めは名前もわからない種類が採集できることがありますが、これらは水深500~800mの深海に生息している生き物なので、生きて採集されることはとても稀です。
 

ハゴロモコンニャクウオ

シラユキモロトゲエビ

もちろん死んでしまったら、貴重な標本として保管することも重要ですが、水族館ですので、できるだけ生きた姿をお客さんに紹介したいという思いで採集しています。
 
2つ目は、すばらしい漁師さんとの出会いです。私達は、日本各地の漁業者の皆さんにお世話になりますが、中には生き物がとても好きな漁師さんがいます。
水族館で扱う生き物は、1匹を大事に展示するので、漁師さんとしてはお金にならないのですが、それに付き合ってくださる漁師さんとの出会いはとても大事なことです。飼育員が乗船させていただいた時に「この魚は超激レアなんですよ!」と喜んでいたら、別の日に採れたその魚をわざわざ船の生け簀に活かしてくださったこともありました。
私達が乗船できる日は非常に限られているので、毎日海に出ている漁師さんは、最強のパートナーといえるでしょう。
 

エビ籠漁乗船の様子

そして最後は、すばらしい研究者の方との出会いです。海の生き物は100万種以上いるといわれており、それぞれの生き物のエキスパートがいて、魚でもカジカ類に詳しい研究者、ハゼ類に詳しい研究者など専門分野は細かく分かれています。
新種かどうか知りたいとき、その生き物に詳しい研究者の方に出会えるのは、とてもラッキーなことです。時には海外にしか詳しい研究者がいない……という種類もいます。このような貴重な出会いが重なって、初めて新種の生き物がデビューとなります。そのため、私たち飼育員は、できるだけ長く展示を続けようと試行錯誤します。
 

採集の様子

−−スタッフの方自身で採集に行くこともあるそうですが、採集の面白いところはどんなところですか?
 
お客様からの「クリオネ(ハダカカメガイ)はどこから水族館にやってくるんですか?」という質問に、「流氷の下に潜って、ペットボトルを使ってクリオネを採集しているんですよ」と答えるととても驚かれます。

ペットボトルを使ったクリオネ採集。ペットボトルの中にすでに採集したクリオネも入っている

今では、いろいろな熱帯魚屋さんもあるので、インターネットを使えばワンクリックで珍しい生き物を注文することができますが、アクアマリンふくしまでは、自分で潜ったり、漁師さんの船に乗せてもらったり、釣りをしたりして、自分たちで魚を集めるようにしています。
これは自分で採集に行くと、目的以外のサプライズな生き物たちも採れることがあるからです。例えば、2年前、クリオネを採集に行った時には、ダルマハダカカメガイというクリオネの仲間も採集することができました。これは、クリオネの仲間では100年ぶりの新種だったことが明らかになったばかりの種です。
海は毎日、天候や潮の流れで採集される生き物が違うので、飼育員も面白い生き物たちとの出会いをとても楽しみにして採集に出かけます。
 

ハダカカメガイ(上)とダルマハダカカメガイ(下)。体長約1cm

新種につける名前を考える

−− シラユキモロトゲエビやハゴロモコンニャクウオ、素敵な名前ですが、どのようにつけているのですか?
 
生き物の名前は、まず学名と呼ばれるラテン語の世界共通の名前を考えます。
もう一つは日本で採集された場合などに、「標準和名」という日本語の名前をつけることがあります。
例えば世界共通の学名でPandalus princeps (パンダルス プリンセプス)と言われても、私たち日本人にはピンときませんが、その標準和名が「シラユキモロトゲエビ」と付けば、「白雪姫=白い肌」や「エビ」がイメージできるので、同じ種類でも親近感がグッと沸いてきます。
図鑑で使われる名前を「命名」する機会なんて、私達飼育員にとっても滅多にない貴重な機会なので、水族館でも親しまれるような名前を研究者の方と真剣に考えます。
また、シラユキモロトゲエビは、採集地の北海道羅臼町の小学生に、実際にエビの生体を見てもらって、名前を考えてもらいました。このような活動を通じて、地元の海にも貴重な生き物がまだまだたくさんいることを子ども達に再発見してもらうことも大事なことだと思います。
 
 

生物採集地での教育普及活動

−−新種の生き物を飼育するにあたっての苦労していることはありますか?
 
見つかった新種や日本初発見の生き物たちの多くは、水深500m以深の深海に生息しています。深海は水温が1〜2℃なので、採集に行く時は、表面の水温が低い時期(10℃以下くらい)に採集したり、ダメージの少ないカゴ網漁の時期を狙ったりしますが、そもそも生きたまま水槽に入れるのは簡単ではありません。
運よく生きて水槽に入れることができても、エサを食べないでそのまま死亡してしまうケースも多くあります。傘径が30cm以上もあるオオメンダコは水族館で人気のメンダコの仲間ですが、初めは与えるエサがわからず、試行錯誤の結果砂浜にいるヨコエビの仲間を食べることがわかり、長期飼育ができるようになりました。
 

水深500〜800mに生息するオオメンダコ

このように、それぞれの好むエサを見つけ出すのもとても重要なことです。それでも長期の飼育が難しい生き物に関しては、人工授精して卵を孵化させ稚魚を育てたり、抱卵していたエビの子供を育てたりして展示につなげることもあります。
 
−−松崎さんは研究者の方と共同研究もされるそうですが、最近面白かった研究や発見、今後やってみたいことはありますか?
 
高級な食材として知られているタラバガニの甲羅の中に卵を産む魚がいます。中央水産研究所の研究者の方のご指導のもと、その魚卵のDNAを調べることで、オグロコンニャクウオアイビクニンという魚であることがわかりました。
 

タラバガニの仲間の甲羅内に赤い魚卵を見つける

魚卵をふ化させて展示したオグロコンニャクウオ

また、漁獲されるタラバガニの仲間の約15%にこの種類の魚卵が入っているのがわかりました。茹でたタラバガニの甲羅の中に魚卵を見つけている人は意外と多いのではないでしょうか。
今後は、カニの甲羅の中に卵を産み付けている決定的瞬間を水槽内で観察してみたいですね。
 
−−どうやって産み付けているんでしょう…!その瞬間は確かにぜひ見てみたいですね!
次回は「シーラカンス保全プロジェクト」担当の岩田雅光さんに、シーラカンス研究の最前線についてお話しを伺います!
 

Author Profile

松崎浩二

1974年福島県生まれ。東北大学農学部生物海洋学講座卒。1998年よりアクアマリンふくしま勤務。2016年にできた「親潮アイスボックス」コーナー担当。

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