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7/23 2018

あなたの知らない○○ワールド

第3回 ワレカラの世界 〜よく見ると海藻についている、アレ

生きものの意外な姿や、知られていない生き様についてご紹介する連載「あなたの知らない○○ワールド」。
第3回は「ワレカラの世界」。
ワレカラ? 聞いたこともない名前かもしれない。しかし、実は和歌にも登場するあの生物なのだ。

ヒメワレカラ。ワレカラの中でもとくに変わった形をしていて、まるで地球の生き物ではないように見えてしまいます。このSFな感じがワレカラのいいところです

この記事をご覧になっているみなさんは、「ワレカラって何?初めて聞いたんだけど……」という方がほとんどだと思います。今回はそんなワレカラというマイナー生物の不思議についてお話していきます。

そもそもワレカラって何?

ワレカラとは、海藻などにくっついて生活する小型の甲殻類で、カマキリやナナフシに似たような姿をしています。体長は1cm前後で、大きくても5cmほどにしかならない上にとても細長く、また海藻と同じ色をしていることが多いので普通の人は気づかない生き物です。「こんなの見たことないよ!」という方が多いのですが、海藻があれば大抵いるので恐らく皆さんが気づいていないだけだと思います。
海藻について生活するため泳ぎがとても下手くそです。また、移動するときはシャクトリムシのように体を曲げながら進みます。

トゲワレカラ。日本で最も多くみられるワレカラのひとつ。細長く、カマキリやナナフシに似た形状をしていることがよくわかります

トサカノリという海藻からとれたトゲワレカラ。1つの海藻にたくさんついていることもしばしば。しかし、ぱっと見では生き物に見えませんね

何の仲間なの?

ワレカラは、分類学的にいうと節足(せっそく)動物門 甲殻亜門 軟甲綱 フクロエビ上目 端脚(たんきゃく)目というグループに属しています。「甲殻亜門=甲殻類」なので、エビやカニの仲間だと思われることが多いのですが、実はちょっと違います。ワレカラはエビやカニよりも、ダンゴムシなどに近いグループの生き物だと言われています。

どこにいるの?

ワレカラは海藻などにくっついて生活する生き物なので、基本的に海藻があれば姿を見ることができます。ワカメやコンブのような大きな海藻や、細長い海藻、枝分かれが多い海藻などで多く見ることができ、ノリのようなペラペラしたものではあまり見られません。また、ワレカラは海水があるところにしか住んでおらず、川や湖などの淡水にはいません。

テングサの仲間につくトゲワレカラ(写真中央矢印)。枝分かれの多い海藻についていると探すのも一苦労です。矢印で示した箇所以外にも、もう1匹ワレカラが隠れています。さがしてみてね

何種類いるの?

世界に400種程度、日本には百数十種がいると言われていて、世界のワレカラの3分の1が日本近海で見つかっています。日本はまさにワレカラ王国なわけです。

【ワレカラの不思議①:特殊すぎる体のつくりと進化】

それでは次に、ワレカラの不思議について解説していきましょう。
 
ワレカラの体のつくりは非常に特殊です。体が細長いとか、色が海藻に似ていてカムフラージュしていることなども十分特徴的なのですが、一番特殊なのは
 
腹がほとんど存在しない
 
ということです。例えば昆虫は「頭・胸・腹」に分かれていて、胸の部分から脚が出ています。また、エビでは頭と胸がくっついて一つになった「頭胸甲(とうきょうこう)」と腹で体が構成されています。
しかし、ワレカラは腹が退化してほとんどなくなっているんです!(肛門があるだけ)
つまり、ワレカラの体の大部分は「頭と胸」。エビの頭だけが海中で生活しているようなものです。
想像するとなかなか凄いことになりますね……

ツガルワレカラの胸節(きょうせつ):A〜G。節足動物には、「脚がある体節は胸である」という決まりがある。頭部はA(第1胸節)と癒合して(くっついて)おり、腹部は退化しているためぱっと見ただけではどこにあるかわからない。

オオワレカラの腹部周辺。真ん中からちょこんと出ている部分(図中矢印)がワレカラのお腹で、これっぽっちしかありません。その先端に肛門が開いています。ワレカラの脚のつま先よりも小さいです。人間では考えられないですね……

なぜ腹がほとんどなくなってしまったのでしょうか? この謎には、進化が関係しています。ワレカラは進化の過程で「泳がず、海藻にくっついて生活する」ことを重要視した結果、生活に必要ないものをわざわざ残すのはエネルギーの無駄になるので捨ててしまおうということになり、腹を発達させる必要性がなくなり、現在の姿になったと考えられています。
もう少し説明すると、エビをはじめとする遊泳性の甲殻類は、腹部に遊泳脚(ゆうえいきゃく)という泳ぐための器官がありますが、泳がないワレカラは腹自体が退化したと考えられます。その証拠に、ヨコエビワレカラという腹が残っている種類もいます。
「退化」は決しておくれているだとか、マイナスの意味ではなく、生活に必要ないものを省いて効率をよくするための進化の1つだということを覚えておくとよいと思います。
生活に必要ないとなれば腹すらもなくなってしまうのが進化の凄いところですね。

【ワレカラの不思議②:ワレカラは実は1000年以上前から日本人と関わりがあった!】

ワレカラは顕微鏡で見ると模様がよく見えます。この写真ではオレンジの斑点が目立っていますね。同じ種でも色に差があったりするのもワレカラのおもしろいところです

現在は知名度が非常に低いワレカラですが、実は1000年以上前はメジャーな存在でした。
例えば、
 
海士のかる 藻にすむ虫の われからと 音をこそなかめ 世をばうらみじ
(あまのかる もにすむむしの われからと ねをこそ なかめ よをばうらみじ)
 
これは平安時代初期、あの「古今和歌集」に詠まれていた和歌です。この歌では「われから」を「ワレカラ」「我から(=自分から)」という2つの意味を持つ「掛詞」として使っています。このような「われから」という言葉が含まれる和歌は、江戸時代までのもので100首以上も存在します。
また、有名なものでは清少納言の「枕草子」にも登場しています。枕草子第41段では、
 
虫は鈴虫。ひぐらし。蝶。松虫。きりぎりす。
はたおり。われから。ひを虫。蛍。
 
と書かれており、「虫の定番といえばコレ!」という例の中にワレカラが登場しています。他にも清少納言のライバル、紫式部の「源氏物語」にもちゃっかり出てきたり、ワレカラを使ったことわざが存在するなど、ワレカラは当時の文学界において重要な存在だったと考えられます。
現在はまったく知られていないのになぜ昔はそこそこ知名度があったのかというと、それは古代日本の海藻文化(海藻をよく食べていた、今ほど海藻に付着する生物を除去していなかった)によるものだと考えられています。昔から海とともに生きてきた日本人ならではですね。
そんなワレカラも時代とともに影が薄くなり、江戸時代には「ワレカラは貝の一種である」という記述までされてしまうことになるわけですが……
 
今では知名度ゼロのワレカラですが、このように不思議がいっぱいで興味深い生き物です。この記事を機に、海へ出かけたときは海藻をよく観察してみてはいかがでしょうか。たくさんの発見が得られると思います。
 
ワレカラについてもう少し知りたい場合は、ぜひ以下のURLにアクセスしてみてください。昨年私が作成した「ワレカラ図鑑」です。ワレカラについての基礎知識と、よく見る種類の写真を掲載しています。よろしければご利用ください。
β版(最新)https://drive.google.com/file/d/1-95VutBnnSLaF0YP-2ux2_kF8yzR84I4/view
https://drive.google.com/file/d/1lFYEauHWhgrvP6JI7ZWEs-Uv8BETwHuL/view

Author Profile

もらしむ

千葉県生まれ。幼少期より自然に触れながら育つ。釣りが趣味で魚が好きなため東京海洋大学へ入学したが、大学生活でワレカラに出会いその不思議な構造に魅了される。

Twitterでは「ワレカラの人」として活動中。

Twitter:@Mola_morashim

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