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10/31 2018

あるある昆虫相談室 おしえて!虫のおじさん

第4回 さいきょうのかまきり 企画展ポスターの出来るまで

ここは昆虫館に勤める学芸員が、年間に何百件と受ける虫の質問のうち「よくある質問と答え」を紹介する連載シリーズの1ページです。
第4回はちょっと趣向を変えて、昆虫館の企画展のポスターの制作過程を解説します。
ポスターは企画展の広報手段としてだけでなく、観る人に展示内容と雰囲気を一目で把握してもらうためにとても重要です。学芸員が自分で制作することもありますが、プロにデザインを依頼することもあります(その際はあらかじめ予算計画を立てておくことが重要ですが、ここではお金の話は割愛します)。ここでは、箕面公園昆虫館と伊丹市昆虫館の「2館合同展 さいきょうのかまきり」のポスターの出来るまでをご紹介したいと思います。

2館合同展「さいきょうのかまきり」とは?

昆虫館や博物館では「企画展」として、テーマを絞った展示会を会期限定で行っていることがあります。
箕面公園昆虫館伊丹市昆虫館は「2館合同展さいきょうのかまきり」と題した企画展(以下 本企画展)を、2018年9月5日~2019年1月14日の期間で開催しています。カマキリ目の昆虫をテーマに、さいきょうの生体、さいきょうの情報、さいきょうの写真、さいきょうの映像、さいきょうのポスターでカマキリを魅せます。展示制作は、両館が協力して取り組み、基本的に2会場とも同じ展示内容となっています。ただし、生体展示では箕面はケンランカマキリが、伊丹はニセハナマオウカマキリが、それぞれの館限定の目玉展示として出ています(2018年10月30日時点;生体展示種はカマキリの体調等により変更されることがあります)。

さいきょうのいきものイラストレーター

本企画展のテーマであるカマキリは、昆虫の中では種数はあまり多くなく、また見栄えのする標本を作るのが技術的に容易でないこともあって、「ずらりと並んだ大量の標本展示を楽しむ」という昆虫をテーマとする企画展の常套手段はとれません。そのため、本企画展では生体展示と展示のデザインにはこだわろうと思い、プロのイラストレーターさんにデザインを依頼することにしました。ポスターと展示パネルデザインは安斉 俊さんに依頼しました。安斉さんは生きものの形態や生きたままの姿を正確にとらえつつ、魅力的な表現で描くことを得意とし、まさに「さいきょうのいきものイラストレーター」と言えます。

さいきょうのかまきりポスターの出来るまで

プロのイラストレーターにポスターデザインをお願いする際は、まずは依頼内容を考える必要があります。ポスターのサイズはどの大きさか、カラーか単色か、展示のタイトルや開催施設の基本情報などの文字情報はどうやって載せるか、どんな生きものを描いてもらうか、締め切りはいつか、デザインの著作権など権利関係はどうするか・・・などなどを細かく決めて仕様書にまとめます。その後は、展示を担当する学芸員が下書きとして「ラフのラフ」を描きます。自分の中でのイメージを簡単な絵として、依頼するプロに見てもらうのです。私は自慢ではないのですが、絵を描くことは苦手です。それでも雰囲気さえ伝わればプロのイラストレーターがくみ取って仕上げてくれるので、恥を忍んで描く必要があります。

ラフのラフ

本企画展の「ラフのラフ」では、日本を代表するカマキリとして、オオカマキリを大きく中央に据え、国内外の「さいきょうのかまきり」たちを周囲にちりばめる設定としました。また、カマキリの研究者として「なかみねさん(生真面目なカマキリ探検隊隊長のイメージ)」と「やまさきさん(中二病を患うマッドカマキリサイエンティスのイメージ)」も登場させてもらうことにしました(実在の人物との関連性はありません)。登場するカマキリたちは私の画力では描き分けられないので、掲載する生きものの種名リストと写真資料などを添えてイラストレーターの安斉さんに提出します。

安斉さんの描いたラフ

提出した仕様書やラフのラフを基に、安斉さんが「ラフ」を描いてくださいます。いきなりポスターデザインに仕上げるのではなく、ラフを吟味してイメージ通りのものか、描こうとしているものに間違いや齟齬がないか確認します。ここでは展示制作チームみんなで修正や追加を検討し、安斉さんに伝えます。

彩色前の線画

ラフについて何度かやりとりをしたあと、安斉さんは完成版の絵の制作に取りかかります。生きものの絵は、プロのイラストレーターといえどもすぐにサラサラと描けるわけではありません。描こうとする生きものの細部にわたる形態や、その種の生態に基づいた自然な姿勢など、綿密に調査をした上で描いていく必要があります。

完成画

本企画展のポスターは3枚の手描き原画をデジタル合成したものとなったのですが、原画の重なりや開催施設情報などで隠れる部分にもカマキリたちがちりばめられて描かれています。これは原画を本企画展で展示することを想定しての安斉さんの遊び心によるものです。例えば、ポスター下部の隠れている部分には水辺があって、ミズカマキリ(カマキリに似ているがまったく違う仲間のカメムシ目の水棲種)が描かれています。ほかにもたくさん描かれていますが・・・詳しくは展示会場でご覧ください。

完成ポスターデザイン

原画展示のようす(伊丹市昆虫館)

2館合同展さいきょうのかまきり 基本情報



期間:2018年9月5日(水)~2019年1月14日(月・祝)
会場:箕面公園昆虫館(大阪府箕面市箕面公園1-18)/伊丹市昆虫館(伊丹市昆陽池3-1 昆陽池公園内)
 
 
 
 
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『日本の昆虫1400 (1)チョウ・バッタ・セミ』
 
槐 真史 編 伊丹市昆虫館 監修 / A6判 / 320ページ/文一総合出版)

Author Profile

長島 聖大

伊丹市昆虫館に学芸員として勤務。分類学を中心にカメムシを研究する伊丹市昆虫館学芸員。恐竜と虫が大好きな長男(8歳)と次男(2歳)の父ちゃん。『日本の昆虫1400』(文一総合出版)『日本原色カメムシ図鑑第3巻』(全国農村教育協会)
日本の昆虫1400①』『日本の昆虫1400②』(文一総合出版)『日本原色カメムシ図鑑第3巻』(全国農村教育協会)
Twitter:@calisius
ブログ:ピンセットサロン

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