一覧へ戻る

連載記事

Running Story

10/26 2020

あるある昆虫相談室 おしえて!虫のおじさん

第6回 安全第一の昆虫採集

ここは昆虫館に勤める学芸員が、年間に何百件と受ける虫の質問のうち「よくある質問と答え」を紹介する連載シリーズの1ページです。
第6回は初心者や子ども連れでの昆虫採集のとき,知っておくべき安全管理についてご紹介します。
昆虫採集や野外活動は安全が第一です。目的の虫を採集することができても、無事に帰れなければ意味がありません。
野外には危険がたくさんひそんでいて、どんなに気をつけても絶対に安全ということはありません。経験を積み、危険を避ける方法を身につけていくうちに、冒険ができるようになります。
そのため、初めは怖がりすぎるくらいでちょうどよいくらいです。
 
※安全管理のついては野外活動の達人を多数擁する日本生態学会でも重要視されていて、90ページ以上にわたる「フィールド調査における安全管理マニュアル」をとりまとめて公開されています。

服装を整えよう

安全な昆虫採集のためにまずおすすめしたいのは服装を整えることです。帽子・長そで・長ズボン・はきなれた靴を着用しましょう。
帽子は熱中症予防として欠かせません。長そでや長ズボンを着用し、なるべく肌の露出を少なくすると、虫刺されや植物に触れることによるかぶれを防ぐことができます。

昆虫採集の服装の基本は 帽子・長そで・長ズボン・靴(撮影協力:筆者長男)

ただし、こうした服装で暑い日に活動すると体温上昇による熱中症や脱水症状になる心配があるので、なるべく通気性のいいものを選びます。
特に長ズボンは重要で、筆者は長男に動きやすい登山用品メーカーの製品を着用させています。長そでのシャツは状況に応じて腕をまくったり、脱いだりしてもよいでしょう。
特にお子様は自分で体温調整をすることが難しいので、保護者が常に気を配ってあげましょう。
また、保護者もしっかりした装備で自分の身を守ることが大事です。お子様の付き添いのつもりで軽装のまま草むらに入り、蚊にこっぴどく刺された保護者の方を観察会で何度も見たことがあります。

軽装のまま子の昆虫採集に付き添い、足首を蚊に刺された保護者の例(撮影協力:筆者妻)

一方,「子どもの昆虫採集スタイルは半そで・短パン・サンダルでOK!」という意見を否定するつもりはありません。
軽装は涼しくて動きやすく、体力消耗を軽減できます。ここでおすすめする服装はあくまで基本で、状況によって適切な服装や装備を判断できるようになることが重要です。

新型コロナウイルス対策でマスクを着用することもある。ただし、他の人との距離を保てる場面では積極的に外して体力消耗を防ぐ。(撮影協力:筆者長男)

熱中症対策をしよう

次に、熱中症予防として十分な量の飲み物を用意します。のどが乾く前に少しずつ飲むことを心がけます。
水分だけでなく、適度な塩分の摂取も重要です。また、飲み物の予備として清潔な真水を携行しておけば、不意のケガの際に患部を洗い流すこともできます。

水は飲用としてだけでなく、手洗いやケガの洗浄にも使える

虫に刺されたときは

虫刺されはかゆみや痛みがあるだけでなく、アレルギーや吸血生物(蚊やマダニなど)が媒介する感染症などの危険性もあるので十分に気をつけます。
毒針をもつハチは黒いものを優先して攻撃する習性があるので、なるべく明るい色の帽子や衣服を着用することをおすすめします(明るく目立つ色のものを身につけていると、人同士の認識もしやすくなります)。
虫刺されの塗り薬や絆創膏などの応急処置セットを常備しておきましょう。

応急処置セットと虫よけ

スズメバチやアシナガバチは毒針をもっているので特に気をつけたい。ハナアブ類のようにハチに似た昆虫で無毒のものも少なくないが、確証をもてない場合は触らないほうがよい

左:ヒトスジシマカ、右:タカサゴキララマダニ 吸血生物は感染症を媒介することがある。また、かゆみによって集中力や注意力が鈍るので、刺されないことが重要。

虫よけの薬剤は効果抜群ですが、使い方を誤ると捕まえた昆虫を弱らせてしまうことがあります。筆者は靴や衣服に虫よけを噴霧するようにして、昆虫を触る手のひらにはなるべくつけないようにしています。
虫除け服についてはこちら
ハチに刺されたり有毒のヘビに咬まれたりした場合は特に注意が必要で、健康状態を慎重に観察しながらなるべく早く医療機関を受診することをおすすめします。
特に呼吸困難や意識・血圧の低下など、患部以外の全身で症状が現れたときはアナフィラキシーと呼ばれるアレルギー症状であるおそれもあるため、受診を急ぎます。

今回は肝心の昆虫採集の方法については触れませんでした。今後の本連載で詳しく書きたいと思いますが、昆虫採集が上手くなるためのコツはあきらめないことです。
あこがれの虫に出会えるまで、何度でも出かけてください。
 
 

Author Profile

長島 聖大

伊丹市昆虫館に学芸員として勤務。分類学を中心にカメムシを研究する伊丹市昆虫館学芸員。恐竜と虫が大好きな長男(8歳)と次男(2歳)の父ちゃん。『日本の昆虫1400』(文一総合出版)『日本原色カメムシ図鑑第3巻』(全国農村教育協会)
日本の昆虫1400①』『日本の昆虫1400②』(文一総合出版)『日本原色カメムシ図鑑第3巻』(全国農村教育協会)
Twitter:@calisius
ブログ:ピンセットサロン

Back Number あるある昆虫相談室 おしえて!虫のおじさん

このページの上に戻る
  • instagram