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5/23 2018

にっぽん酒紀行

第3回 人が運ぶものたち──出羽三山、出羽燦々、そしてDEWA33

お酒は植物の稔りと微生物の力のたまもの。
それは、各地の気候、風土に寄り添ってきた人々のなりわいを背景に、土地土地の銘酒に育ちました。酒師にして植物学者、『酒米ハンドブック』の著者副島顕子さんが、人と自然の申し子・銘酒のふるさとを旅します。第3回は、山形県の酒米と、ふしぎな分布を見せる植物をめぐるお話。

出羽神社参道のミヤマヨメナ(撮影/加藤幸助)

 
山形を訪れたのは6月の中旬。寒い年だったのだろうか、鳥海山の駐車場にはまだ大きな雪溜まりが残っていた。目当てにしていたオキナグサの花には遅く、シロスミレには早い、そんな時期のことである。山形は植物学的なネタの宝庫で、この時も知人の案内であちこちのいろんな植物を訪ねて回った。
 
羽黒山にはミヤマヨメナを見に行った。園芸種のミヤコワスレの原種で、野菊の仲間としては珍しく春に咲く。羽黒山の出羽(いでは)神社にミヤマヨメナがあると聞いてはいたが、行って驚いた。有名な五重塔へと続く参道の両脇に大きな群落があり、延々と花をつけていたのだ。背丈は人の膝くらい。少し光沢のある濃い緑の葉に薄紫の花がよく映えていた。
 
羽黒山は月山、湯殿山と並ぶ出羽三山のひとつ。山形の中北部の平野になだらかな稜線を描く。山岳信仰の修験場として名高いわりに厳しさよりも優美さを感じさせる山容だ。まだ展葉しきっていない落葉樹の新緑も目に柔らかい。
 

出羽神社参道の自生地で研究用の試料採取を行う著者(撮影/加藤幸助)

話は変わるが、出羽燦々。山形特産の酒米の名前である。初めてこの名前を聞いたときはてっきり出羽三山にかけたのかと思ったが違っていた。山形には他にも多数の名峰があり、1,400 mを超える山が33座あるという。そちらにかけたのだ。一気に時空が広がって視界が開ける思いがする。
 
山形は知る人ぞ知る吟醸王国であり、全国的に名の通った酒蔵も多い。水準が高い理由はいくつもあるのだろうが、県の工業技術センターの指導の良さと蔵どうしの交流が大きな要因なのは間違いない。そのことは「DEWA33」という統一ブランドの存在に象徴されている。「DEWA33」は、米に出羽燦々、酵母に山形酵母、麹にオリーゼ山形を使用するという共通の条件で造られた純米吟醸酒である。ある意味、実力を試される恐ろしい企画だが、県下のほとんどの蔵元が参加して競い合っている。「やわらかくて、巾がある」のが共通の特徴だというが、これは飲み手によって異論もあるかもしれない。というか、飲み手は「そう思う」とか「いや違う」とかいうのを楽しめばいいのである。
 

今更ながら調べてみたところ、山形に1,400 m以上の山は56座を数えることになった(嘘つき)。そうか、単に1,400 m超えというだけではなくて、名峰でなくてはならないのか、ということで山に詳しい山形在住の知人、加藤幸助さんに尋ねたところ、私家版33座を選択してくれた。山形中の山を登り尽くしている人ならではの納得のいく名峰達だと思う。ちなみに左上のマークは、統一ブランド「DEWA33」の認証マークである

 
 
 
さて、ミヤマヨメナの話には後日談がある。熊本在住の植物愛好家の方と話をしていてミヤマヨメナの話になった。このあたりの家で栽培されているミヤマヨメナは全部私が分けた株の子孫だと、その方はおっしゃるのである。聞けば由来は羽黒山のもの。育てやすく、丈夫でよく増える。人から人に伝わっていったらしい。そこで、はたと昔からの疑問を思い出した。熊本に一箇所、自然分布と飛び離れた場所にミヤマヨメナの集団があるのだ。古くから自生だといわれていたが、本当に自然分布なのかどうか怪しいよね、とも囁かれる。その場所は有名なお寺の裏である。決定的な証拠はないものの、答えが見つかったと思った。
 
 
 

Author Profile

副島 顕子

熊本大学大学院先端科学研究部教授。
専門は植物系統分類学。国内外で植物採集をおこない、研究室では分子生物学的な研究をしている。趣味で日本酒指導師範、唎酒師、スピリッツアドバイザー、焼酎唎酒師の資格を取得。『酒米ハンドブック』(文一総合出版)著者。

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