第2回 いもむし・けむしの疑問Q&A
ここは昆虫館に勤める学芸員が、年間に何百件と受ける虫の質問のうち「よくある質問と答え」を紹介する連載シリーズの1ページです。第2回は「いもむし・けむし(芋虫と毛虫)」です。
春から初夏にかけて、草木を食むイモムシや毛虫を見る機会が増えてきます。その多くは蛾(ガ)やチョウの幼虫です。よくある質問と答えをご紹介いたします。
Q.「これはチョウの幼虫ですか?」
A.「チョウの幼虫の姿と食草をおぼえましょう」
イモムシ・毛虫の名前を知りたい、とご質問をいただく方から最も多く訊かれるのがチョウの幼虫の識別です。
残念ながら、「ここが○○だったらチョウの幼虫」というような色や形による識別点はありません。
しかし、日常的に見つかるチョウの種数はあまり多くありません。よく見つかるチョウの幼虫の姿をおぼえておくと良いでしょう。また、チョウは食草(幼虫の食べる植物)を確認することによっても目星をつけることができます。
よく見つかるチョウとその食草
Q.「食草ってなんですか?」
A.「幼虫が食べる植物です」
昆虫が食べる植物のことを食草(しょくそう)と呼びます。木であれば食樹と呼び分ける必要がありそうですが、「食草」とひとくくりにされることも少なくありません。種によってある程度決まった食草を選ぶ仲間と、葉っぱなら選ばず食べてしまう仲間がいます。見つけたイモムシ・毛虫の食草を調べるには、昆虫図鑑の種ごとの解説に書かれている「食草」の項を読むか、見つけた場所に生えている植物を調べるとよいでしょう。
Q.「イモムシと毛虫のちがいは何ですか?」
A.「毛が多いか少ないかです。でもどちらとも言えないものもいます」
じつは、イモムシと毛虫に明確なちがいはありません。体の表面に毛が少ないものをイモムシ、毛やトゲが多いものを毛虫と呼びます。そしてどちらともつかないものも存在します。
また、蛾の幼虫だけが毛虫と思われがちですが、チョウの幼虫にも体が毛やトゲにおおわれる種がいます。
キアゲハの幼虫。体の表面に毛の少ないイモムシ
マイマイガの幼虫。体の表面に毛の多いケムシ
ヤママユの幼虫。イモムシとも毛虫ともどちらともつかない
Q.「毛虫には毒がありますか?」
A.「無毒のものもたくさんいますが、アレルギーには注意が必要です」
毛虫の中にはその毛に毒をもち、さわるとかぶれなどの症状を起こすものがいます。特にチャドクガやイラガは街路樹や公園に植わっている植物についていることが多く、症状も重いので注意が必要です。
一方、無毒の毛虫もたくさんいて、手にのせても基本的には問題ありません。肌の弱い人やチョウや蛾にアレルギー反応を起こす体質の人などは、かぶれたりチクチクとした刺激を感じたりすることがあるので注意が必要です。
チャドクガの幼虫。ツバキなどの葉に集団でついていることがある。毒のある毛は折れやすく、近づいただけでも飛んできた毛によって被害にあうことがある
ヒロヘリアオイラガの幼虫。街路樹や庭木についていることが多い。毒針にふれるととても痛く、症状がおさまらずに苦しむ
ヒトリガ科の一種(よく似たものが数種存在する)の幼虫。「クマケムシ:とも呼ばれ、道路を横断しているところをみつけることの多い無毒の毛虫
Q.「お尻にツノのある大きなイモムシがいました」
A.「スズメガの仲間です」
お尻のところに一本、ツノを生やした大きなイモムシがみつかることがあります。これは多くの場合はスズメガ科の仲間の幼虫です。成虫になると洗練されたデザインのかっこいいガになったり、クチナシを食べるものであればオオスカシバという透明な翅をもつ可愛らしいガになったりします。
セスジスズメの幼虫と成虫
クロメンガタスズメの幼虫と成虫
オオスカシバの幼虫と成虫
Q.「どうやって育てればいいですか?」
A.「新鮮な食草を与え、うまく蛹にしてあげてください」
イモムシや毛虫の楽しみ方の醍醐味は飼育といえます。是非飼ってみてください。
成虫になるまで育てないと名前がわからないことがあります。旺盛な食欲で葉をたいらげていく姿は、一日中眺めていてもいいというほど癒やされます。
飼育の基本はケースの中に新鮮な食草を欠かさないということと、蛹にさせるための環境作りです。イモムシ・毛虫は大きく分けて、枝や葉の裏に蛹を作るタイプと、土に潜って蛹になるタイプがあります。後者はケースの底に湿らせたティッシュをふんわりと敷いておけば、その中に潜って蛹化に成功することが多いです。
飼育技術についてはまた別の機会にくわしく記事にしたいと思います。
Q.「もっと知りたい」
A.「イモムシハンドブックがおすすめです」
イモムシ・毛虫の美しい写真をずらりと並べた「イモムシハンドブック」がおすすめです。
イモムシハンドブック①②③
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Author Profile
長島 聖大
伊丹市昆虫館に学芸員として勤務。分類学を中心にカメムシを研究する伊丹市昆虫館学芸員。恐竜と虫が大好きな長男(8歳)と次男(2歳)の父ちゃん。『日本の昆虫1400』(文一総合出版)『日本原色カメムシ図鑑第3巻』(全国農村教育協会)
『日本の昆虫1400①』『日本の昆虫1400②』(文一総合出版)『日本原色カメムシ図鑑第3巻』(全国農村教育協会)
Twitter:@calisius
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